日本の美意識から生まれる、本物の価値を求めて。

今年、ミラノデザインウィーク2015で実現した「玉川堂」、「金城一国斎」という名匠との異色のコラボレーション。それは、独自のデザインコンセプト“魂動”を追求するマツダにとって、極めて刺激的な経験となった。伝統的な技法でつくられる工芸品と、最先端技術によって生み出される自動車。一見、相反するようにみえる両者のつくり手が、一緒になって日本の美の真髄を目指すことができたのはなぜか。
今回、2人の名匠と、執行役員 デザイン本部長の前田育男(役職は2015年9月14日時点)が、自らの向かうべき美しさについて語り合った。

記事公開日:2015年9月14日

  

前田 育男

前田 育男

執行役員 デザイン本部長
(2015年9月14日時点の役職)

玉川 基行

玉川 基行

玉川堂 七代当主

金城一国斎

金城一国斎

漆芸家 七代

新たな可能性を示した、ミラノでのコラボレーション。

マツダデザインの根底に流れる思想を伝えるため、
2人の名匠にコラボレーションを打診。

まずはデザイン本部長の前田が、『玉川堂』、『金城一国斎』とのコラボレーションにいたる経緯を語った。

「今年マツダは、『クルマはアート』というテーマを掲げてミラノデザインウィークに出展しました。じつは2年前にも同じテーマで参加したのですが、その時に、まだまだ表現が足りないと感じていました。我々のデザインの根底にある思想や、アートとの関連性などをもっときちんと訴求したい。そこでマツダの“魂動”を題材に同じ志をもったアーティストとのコラボレーションを考えた訳です」。

伝統とは、革新の連続。独自性を極めていくことがブランドにつながる。

アーティストを選ぶ基準は明快だった。人の手が生み出すアートであること。ある動きを表現していること。そして研ぎ澄まされた美しさがあること。これらはすべて“魂動”につながる要素だ。

「金城さんは広島の方で、以前からマツダデザインともつながりがありました。作品の素晴らしさに、いつか機会があればご一緒したいと思っていました。玉川さんは新潟の燕三条を拠点にされていて、あそこは我々モノづくりに関わる人間にとっては聖地のような場所で、その作品には、デジタルとは対極の、人の手で創った温かみ、強さと美しさが宿っています。そこには勝手ながら、我々と近いモノ創りの志を感じていました。こうして玉川堂さん、そして金城一国斎さんにお声がけをしたのです」。

“魂動”をどう解釈し、どう表現するか。
真剣勝負の創作がスタートする。

玉川堂 七代当主 玉川基行

マツダからの突然のオファーを、2人はどう感じたのだろう。玉川堂七代当主の玉川氏は語る。

「最初は内装のパーツなどをイメージしましたが、”魂動”というテーマを託され、そうではないと。これを銅器でどのように表現するか、思案の日々が続きました。鎚起銅器は一枚の銅板を叩いて形をつくります。この叩くという行為そのものが”魂動”につながるのではないかと考えました。通常の作業で使用する銅板ではなく、銅の塊を使用するまだ銅板が手に入らなかった時代の「番子」と呼ばれる手法を復活させ、3人がかりで魂を込めて叩き上げたのが、この度の作品です」。

七代金城一国斎の金城氏は、祖先を振り返りながら語った。

「かつて私の祖父五代が非常に苦しい時代にマツダのオーナーから沢山仕事をいただき、助けていただいたという話を聞いていて、いずれ私の代でマツダさんと一緒に何かできればという想いがありました。今回のお話をいただき、これで恩返しの夢がかなう。しかも発表の場はミラノ。まさに真剣勝負だと感じました。
私も“魂動”について自分なりに考えました。私の作品はすべて自然素材でできています。すでに命は宿っているのですが、私の手によって新しいカタチを与えていく。そして最後にフッと魂を吹き入れる。一連のこの作業は“魂動”というクルマづくりと同じと思ったのです。“カタチに魂を宿らせる”ということを表現できればと考えました」。

漆芸家 七代 金城一国斎

まさに息をのむ美しさ。
想像をはるかに凌ぐ作品が誕生。

やがて完成した2人の作品が、前田のもとに届けられる。

「その時は、見せてもらう私のほうがよっぽど緊張して(笑)。ある期間、志をともにしてアーティストに想いを委ねた作品じゃないですか。見た時にグッと感情が揺さぶられるものがないと嫌だなと思っていたので。すごく楽しみな反面、見るのが怖いという気持ちも持っていました」。

金城一国斎・玉川基行・前田育男

そして、作品を覆っていたベールが外される。

「その瞬間、何と表現すればいいのかな…。想像をはるかに超えていました。とにかく感動しました。“魂動”とは、すごく抽象的な精神論みたいなもので、どんな解釈でもできます。だから、どういう解釈をしてカタチをつくったのか、そこに興味がありました。玉川さんの作品は、叩く動きとつくる人の動きと実際のフォルムの動きが、じつにうまくリンクしている。フォルム全体でここまでダイナミックな動きを表現した作品というのは、玉川堂さんもあまりやられてないと思います。それが今回のコラボレーションによって実現した。そのことにも感動しました」。

「一方、金城さんの作品は、世界観としては緻密。それは緻密であればあるほどいいと考えていましたが、場合によっては繊細な印象になりすぎるかなとも感じていました。それが、この圧倒的な存在感です。初めて見た時、『水が流れ落ちる音が聞えてきますね』って言いました。上の部分の張りが水の表面張力みたいなものを表現していて、そこからすーっと水が流れていく速度とか音とかが、全部感じられる。すごく感動しました。両方とも想定を超えた圧倒的な美しさでした」。

感嘆の声が広がる、ミラノの会場。
日本の美の奥深さを鮮烈に印象づける。

感嘆の声が広がる、ミラノの会場。日本の美の奥深さを鮮烈に印象づける。

そして舞台はミラノ。世界各国のメディアを前に、前田はマツダデザインと日本の美意識の関係をプレゼンテーションし、2つの作品を紹介した。

「もうね、オオーッて声が上がりましたよ。多くの方が食い入るように2つの作品を見つめていました。欧米の美意識とはかなり違っているんだけれども、繊細さの中に宿るダイナミズムを直感的に感じてもらえたんだと思います」。

ミラノでの反応から得た実感と気づき。

玉川氏は現地に駆けつけ、作品への反応を見守った。

「自動車関係者の方が多かったのですが、アートへの興味も強くて。素材や着色の方法など、質問攻めされました。手わざを駆使した日本の美は、国境と業種を超えて普遍的な美があるとあらためて実感しましたね」。

金城氏は、このコラボレーションでいろんな気づきを得たという。

「漆塗りには艶が生まれるので、まわりの風景がすべて映り込みます。考えてみれば、それはクルマとまったく同じで。そういう“映り込みの美”が、形状の微妙な変化によってさらに楽しく、美しく人の目に映ります。この経験は、今後の作品のフォルムづくりに何かしらの影響を与えると思います」。

前田は今回のコラボレーションを通じて、日本の美の奥深さをあらためて痛感した。

「マツダデザインの将来を築くためには、日本の美意識の深い部分をもっと勉強して理解しなければと思いました。日本の工芸には長い歴史があり、そこには先人たちが守り抜いてきた崇高な日本の美意識がある。100年ほどのクルマの歴史のなかで我々カーデザイナーが描いてきたものは、まだまだ未熟で子どものようなものかも知れません。もっと深い部分を理解して、クルマの表現に生かしていきたいと思っています。」

感嘆の声が広がる、ミラノの会場。日本の美の奥深さを鮮烈に印象づける。

感嘆の声が広がる、ミラノの会場。日本の美の奥深さを鮮烈に印象づける。


  

名匠プロフィール

玉川堂 七代当主 玉川基行

玉川堂 七代当主

玉川 基行

金属加工の名産地として知られる燕市に拠点を構える「玉川堂」は、約200年の歴史を誇る工房。一枚の銅板を金鎚や木槌で打ち延ばし、打ち縮めて、茶器などの器に仕上げる“鎚起銅器”の技法によって、実用品でありながら美術工芸品のような美しさを放つ、洗練されたプロダクトを生み出している。
玉川堂 ウェブサイト:www.gyokusendo.com

漆芸家 七代 金城一国斎

漆芸家 七代

金城一国斎

植物や虫といった自然のモチーフを漆で立体的に盛り上げ、色漆で彩色する“高盛絵”。金城氏は、この独自の技法を広島で打ち立てた金城一国斎約200年の系譜を受け継ぐ七代目。伝統の技を大切にしながらも、時代の変化を敏感にとらえた新しい表現を追求し、精力的に創作を続けている。
金城一国斎 ウェブサイト:www.ikkokusai.com

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