メーカーと大学、理想的な連携が育んだ、“新しい基本機能”。

マツダが開発したG-ベクタリング コントロール(以下、GVC)には、その考え方の基礎となる論文の存在がありました。それが、神奈川工科大学の山門教授らによる「安全走行を支援する新しい車両運動制御技術(G-ベクタリング制御)」です。今回、共同開発者としてGVCの誕生に大きく関わった山門教授と、同じくオブザーバーとして携わった安部名誉教授に、マツダとの共同開発の背景やこの技術が製品化された意義などを語っていただきました。

  

山門 誠 教授

山門 誠 教授

神奈川工科大学 創造工学部 自動車システム開発工学科

安部 正人 名誉教授

安部 正人 名誉教授

神奈川工科大学
 

必然によって導かれた、マツダとの共同開発。

この技術を製品化したい。マツダだけが目の色が違った。

山門教授
この研究を始めたのは10年ほど前からです。当時、私は日立製作所で車両システムの開発に従事していました。私自身がクルマ好きで、よくサーキットで走っていたのですが、コーナーをうまく曲がる時の車両の動きを“数式化”できないかと思ったのがきっかけです。その後、車両運動力学の第一人者である安部先生に師事し、研究と実証を重ねてまとめた論文が、2009年発表の「G-ベクタリング制御」となります。簡単にいえば、カーブを曲がる際にハンドル操作に応じて前後加減速を自動制御し、スムーズで安定したコーナリングを実現しようというものです。

マツダさんとのつきあいは、じつは論文の発表以前から始まっていました。GVCの開発責任者の梅津さんとは、もともとサーキット仲間だったのです。しかも、自動車エンジニアの交流の場である自動車技術会という学会では、“車両の運動全体をどのように調和させるべきか?”というようなディスカッションをともに重ねていました。ですから、ずっと昔から交流は続けてきたのです。

そうやって研究を重ねて理論を定め、論文にまとめて学会で発表しました。これにはいろんな自動車メーカーが関心を示したのです。しかし、どこもマツダさんほど本気でこの技術を導入しようとは考えていなかったように思います。マツダさんの場合は、例えば上層部の方がテスト車両に試乗して戻ってくると、目の色が違っているのです。「これをつくったのは、あなたですか」と、いきなり声をかけられ、名刺を渡される。“自分たちのクルマの延長線上の技術が、ここにある”。みなさん、そう確信したような表情をされていましたね。

“人間中心”の技術。両者の思想は完全に一致していた。

安部教授
G-ベクタリング制御には、3つの重要なポイントがあります。1つめは、プロドライバーの運転技術を分析して生まれたという点。人間の動きから発想した理論なのです。2つめは、おせっかいな制御ではないという点。曲がりたい時に強制的に曲げる技術ではなく、うまく曲がれるようにお膳立てをする技術なのです。3つめは、その結果、ドライバーがゆとりをもって運転できるようになるという点です。

考えてみると、これらのポイントはすべて、マツダさんの掲げる“人間中心”や“人馬一体”といった開発思想と完全に一致しています。人間から発想したクルマづくりを追求してきた彼らが、私たちと出会ったのは、もはや必然だったのではと思います。

山門教授
しかも、この技術を広く普及させるために、得意のエンジン制御技術でこの理論を実現しようとした。この発想は、マツダさん独自のものでした。私たちはブレーキによって実証試験を行っていたのですが、確かにエンジンで減速するほうが、エネルギーロスがなく効率的です。とはいっても、さすがにエンジントルクをそこまで緻密にコントロールできるわけがない。私自身、そう思っていました。

エンジンとシャシーの連携。なぜマツダに実現できたのか。

山門教授
ところが、「できました!」と開発責任者の梅津さんから電話がありまして。あの時は本当にびっくりしました。ただ、驚きながらも、やはりマツダさんだからできたのだ、とも感じていました。

まずは、SKYACTIVエンジンという応答性に優れるエンジンがあった。そしてそれ以上に、部門の垣根を超えて協力できる開発体制があった。

この技術は、エンジン部門とシャシー部門が一体となって開発に取り組まなければ実現しないものです。口で言うのは簡単ですが、普通は部門ごとの思惑が障壁となり、なかなか一体になれるものではありません。でも、マツダさんにはSKYACTIV TECHNOLOGYから続く、部門を超えた開発体制の蓄積がありました。今回も見事に一体になっていた。 “G-ベクタリング制御は、自分たちが実現すべき技術だ”という想いが、開発現場の一人ひとりに浸透していたからなのでしょう。前職では自動車メーカーさんとのつきあいが多かったので、そのあたりの事情もわかるからこそ、梅津さんの「できました!」という言葉には心底驚きを覚えたのです。

  

  

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