• この記事は2023年11月時点のものです。
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ロードスターを作った開発者たち

人馬一体の走りを実現する「アシンメトリックLSD」

初代RX-7にはLSD(リミテッド・スリップ・デファレンシャル)を搭載したモデルがありました。その時のLSDサプライヤーは栃木富士産業株式会社。現在のGKNドライブラインジャパン株式会社(以下GKN)です。マツダはその後もRX-7やロードスターにさまざまなLSDを採用し、日常を楽しむスポーツカーに適したLSDの在り方を模索してきました。そして、2代目ロードスター後期型から採用されたのが、GKNが開発した「スーパーLSD」。円錐クラッチによるシンプルで軽量、高耐久なメカニズムで、その後RX-8や3代目ロードスター、そして現行ロードスターにも搭載されてきました。そして今回のロードスター商品改良では、マツダとGKNの共同開発による「Asymmetric Limited Slip Differential(以下、アシンメトリックLSD)」を新たに採用。共にロードスターの運動性能を造り込んできたマツダとGKNのエンジニアの長年の知見に基づいて開発された、ロードスターらしい「人馬一体」の走りをより深く実現するLSDです。この新たなLSDの開発に携わった3名のエンジニアに話を聞きました。

アシンメトリックLSDの構成部品

アシンメトリックLSDの構成部品

LSDで運動性能を進化させるという発想

廣田

「マツダとは、GKNドライブラインジャパンの前身の栃木富士産業の時代からお付き合いがありまして、初代RX-7の多板クラッチ式LSDや、ロードスターで言えば2代目の後期モデルから現行モデルまで一貫して『スーパーLSD』を採用していただきました。今回の『アシンメトリックLSD』は『スーパーLSD』から数えると20年ぶりにメカニズムを刷新したということで、長年温めてきたアイデアをようやく実現できました」

廣田

「マツダとは、GKNドライブラインジャパンの前身の栃木富士産業の時代からお付き合いがありまして、初代RX-7の多板クラッチ式LSDや、ロードスターで言えば2代目の後期モデルから現行モデルまで一貫して『スーパーLSD』を採用していただきました。今回の『アシンメトリックLSD』は『スーパーLSD』から数えると20年ぶりにメカニズムを刷新したということで、長年温めてきたアイデアをようやく実現できました」

GKNドライブラインジャパン株式会社  廣田 功様

* 以降、敬称略させていただきます。

GKNドライブラインジャパン株式会社  廣田 功様

* 以降、敬称略させていただきます。

髙橋

「現行ロードスターも熟成されてきて、ここから性能をもう一段階引き上げるために、何ができるかを改めて考えました。これまでは、LSDの設計はパワートレイン開発本部の担当ということもあり、私たち操縦安定性担当のエンジニアはサスペンション中心の性能づくりに集中していました。私自身は2代目ロードスターから開発に携わっていますが、正直、これまでLSDの特性を工夫することで運動性能を進化させるという発想はなかったのです。一方、マツダでは近年『G-ベクタリング コントロール』や『i-ACTIV AWD』など、パワートレインの領域を運動性能へ生かすということをやってきました。その知見があったからこそ、今回の『アシンメトリックLSD』が生まれたのだと思います」

髙橋

「現行ロードスターも熟成されてきて、ここから性能をもう一段階引き上げるために、何ができるかを改めて考えました。これまでは、LSDの設計はパワートレイン開発本部の担当ということもあり、私たち操縦安定性担当のエンジニアはサスペンション中心の性能づくりに集中していました。私自身は2代目ロードスターから開発に携わっていますが、正直、これまでLSDの特性を工夫することで運動性能を進化させるという発想はなかったのです。一方、マツダでは近年『G-ベクタリング コントロール』や『i-ACTIV AWD』など、パワートレインの領域を運動性能へ生かすということをやってきました。その知見があったからこそ、今回の『アシンメトリックLSD』が生まれたのだと思います」

操安性能開発部シニアスペシャリスト 髙橋宏治

操安性能開発部シニアスペシャリスト 髙橋宏治

廣田

「従来の『スーパーLSD』は、シンプルな構造のため、駆動側と減速側で同じ差動制限特性でした。それをベースに、少し工夫してカム機構を加えれば、駆動側と減速側で異なる特性を実現できると思い、アシンメトリックLSDにつながるデフを試作していたのです。ちょうどそれと同じタイミングで、マツダさんからロードスターのLSDを進化させたいと言われたときは驚きましたね」

 

髙橋

「これまでのLSDは、駆動側と減速側で同じ差動制限力を発生させることしかできなかったので、どちらかの特性にしか合わせることができませんでした。トラクション性能を優先してLSDを効かせすぎると曲がりにくくなったり、差動音が出たりというデメリットもあったのです。それが『アシンメトリックLSD』では、必要なシーンで適切な差動制限力を与えることで、ロードスターらしいひらひらとした軽快感はそのままに、安定感が増すような乗り味にできるとわかりました」

日常域から限界域まで、一貫したフィーリングの追求

平賀

「私は車両運動の解析を担当していますが、髙橋や梅津のような開発ドライバーは数値に現れない違いを感じることができるので、廣田さんにはかなり厳しい要求をお願いしたこともあったと思います。三次や剣淵などマツダのテストコースだけではなく、ドイツのニュルブルクリンクにまで来てもらい、10回以上もの共同テストを通して、15仕様もの試作品をつくっていただきました。例えば、開発ドライバーが『右旋回と左旋回で性能が違う』と言うのでデータを確認してみると、一見、違いはなさそうに見える。でも、よく調べてみると、クラッチ部分の油溝の方向に左右差があることがわかりました。そこで、左右の油溝を対称形にしてもらったところ、左右差がなくなった、ということもありました」

平賀

「私は車両運動の解析を担当していますが、髙橋や梅津のような開発ドライバーは数値に現れない違いを感じることができるので、廣田さんにはかなり厳しい要求をお願いしたこともあったと思います。三次や剣淵などマツダのテストコースだけではなく、ドイツのニュルブルクリンクにまで来てもらい、10回以上もの共同テストを通して、15仕様もの試作品をつくっていただきました。例えば、開発ドライバーが『右旋回と左旋回で性能が違う』と言うのでデータを確認してみると、一見、違いはなさそうに見える。でも、よく調べてみると、クラッチ部分の油溝の方向に左右差があることがわかりました。そこで、左右の油溝を対称形にしてもらったところ、左右差がなくなった、ということもありました」

操安性能開発部アシスタントマネージャー 平賀直樹

操安性能開発部アシスタントマネージャー 平賀直樹

髙橋

「ロードスターはさまざまなお客様に愛されているクルマなので、『このシーンは良いけど、このシーンではだめ』という状態にはしたくありません。どんなお客様でも運転を楽しんでいただけるように、日常域から限界域まで、その間のつながりもロードスターらしく一貫したフィーリングになるように、細かな部分にもこだわりました」

平賀

「そのつながりというところがデータ上は見えにくく、決まった定型のテストをこなしているだけでは絶対に分からない部分です。ある動作範囲の台上試験の結果としては同じだけど、もっと幅広いシーンで実際に試験車両を走らせて評価すると全然違う。それに従ってデータ分析をすると見えてくる違いがあり、必要な特性を明らかにして部品を改善する。とにかくその繰り返しでした」

廣田

「このような性能差を感じ取れるとは、それだけマツダには優秀な開発ドライバーがいるということですよね。要求は確かに厳しいものもありましたが(笑)、私たちが新しい試作品を持っていくと、必ず『ここが良かった、ここが悪かった』と隣に乗せて教えてくれました。こんなことは普通あり得ません。これまでは製品の仕様書を満足するものができていれば合格だと思っていました。しかし、マツダさんと『アシンメトリックLSD』を一緒につくったことで、クルマをより良くしようという開発に私たちも携れた実感があり、それがとても嬉しかったですね。苦労した分、完成した時の喜びもひとしおでした」

廣田

「このような性能差を感じ取れるとは、それだけマツダには優秀な開発ドライバーがいるということですよね。要求は確かに厳しいものもありましたが(笑)、私たちが新しい試作品を持っていくと、必ず『ここが良かった、ここが悪かった』と隣に乗せて教えてくれました。こんなことは普通あり得ません。これまでは製品の仕様書を満足するものができていれば合格だと思っていました。しかし、マツダさんと『アシンメトリックLSD』を一緒につくったことで、クルマをより良くしようという開発に私たちも携れた実感があり、それがとても嬉しかったですね。苦労した分、完成した時の喜びもひとしおでした」

髙橋

「サプライヤーは部品を供給してくれるだけでなく、ともにクルマをつくり上げていくパートナーだと思っています。そうしないと良いものはできません。ロードスターのお客様には、『自分のロードスターが1番』と思っておられる方が多いと思います。その分、私たち開発エンジニアは、そんなロードスターファンの方々にも『新しいロードスターもいいな、買い換えたいな』と思っていただけるよう、良いクルマを造らなければいけません。今回は『アシンメトリックLSD』を搭載したことで、さらに多くのお客様にロードスターらしい走りをより深く楽しんでもらえると思います」

ドイツ・ニュルブルクリンクでの走行テスト

ドイツ・ニュルブルクリンクでの走行テスト

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