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日本、世界を旅する写真家が教える、
素晴らしい風景写真を収めるための撮影旅行のつくりかた

   

美しい風景に出会い、それを写真に収めたい。
そんな願いとともにハンドルを握り、カメラを相棒に各地を駆け巡るドライバーの方がたくさんいます。
理想のシャッターチャンスを求めて、多くの方がそれぞれの旅を計画していますが、そもそも「美しい風景に出会う旅」を、一体どのようにつくればいいのでしょうか。
今回、撮影旅行のつくり方のコツを聞いたのは、数多くの風景写真を収めてきた写真家の吉村和敏さんです。日本、そして海外を車で巡り、シャッターを切り続けてきた吉村和敏さんに、撮影旅行の計画づくりと、素晴らしいシャッターチャンスに巡り会うための移動のポイントを聞きました!

   

吉村和敏(Kazutoshi Yoshimura)

1967年、長野県松本市で生まれる。高校卒業後、東京の印刷会社で働き、退社後、1年間のカナダ暮らしのさなか、写真家としてデビューする。以後、東京を拠点に世界各国、国内各地を巡る旅を続けながら、意欲的な撮影活動を行っている。カナダメディア賞大賞(2003年)、日本写真協会賞新人賞(2007年)、東川賞特別作家賞(2015年)受賞。写真集、個展などを通じた作品発表活動だけでなく、フォトコンテストの審査員も多数担う。

   

   

どこに、いつ行くか?
テーマに応じて場所を決め、
そこにできるだけ長くいられるように

   

ー 吉村さんの撮影旅行は、ほぼ車での移動だそうですね。

   

吉村さん:世界中どこでも、自分でハンドルを握り撮影場所を駆け巡るのが基本です。
国内だったら、車で行ける場所であれば、北海道でも九州でも、愛車のMAZDA CX-5で移動し、撮影しています。

   

   

ー まさに「車で旅する写真家」ですね。今日は吉村さんの撮影旅行のポイントをいろいろ教えてください!まず気になるのは撮影場所です。吉村さんはどのように撮影旅行の目的地を決めていますか?

   

吉村さん:僕の場合は、まず「どんな写真を撮るか?」というテーマありきで撮影旅行を計画します。例えば、信州に保存されているSLを撮る、というテーマであれば、もちろん目的地は信州各地に点在するSLのある場所になります。美しい雪景色を撮る、といった抽象的なテーマの場合は、雪を求めてただただ北上するということもありますが、基本的にはテーマがあれば、自然と目的地は決まります。

   

ー 「どこに撮りに行くか迷ってしまう」という場合は、まずテーマを決めるのが早道かもしれませんね。では、目的地が決まったとして、そこにいつたどり着くように移動するのでしょうか?

   

吉村さん:撮影するフィールドにいられる時間を可能な限り長くできるようにスケジュールを組みます。フィールドにいればいるだけシャッターチャンスは増えますし、太陽の動きによって光の状態が刻々と変化する中で、とくに美しい瞬間に立ち会える可能性も高まります。

   

 

吉村さんにご提供いただいた作例。たまたま入った小道で偶然見つけた風景だと吉村さんは言います。「可能なかぎりフィールドにいる時間を長く」を体現し、動き回るからこそ、こうした風景に出会うチャンスが得られます。

   

ー 遠方での撮影では、宿や拠点となる場所をどのように決めるのでしょうか?

   

吉村さん:撮影に都合の良い場所に宿があれば、もちろんそこに宿泊しますが、車中泊を考える場合もあります。例えば、日の出のタイミングを狙った撮影のように、時間が限られている場合であれば、撮影場所近くの車中泊ができる場所で仮眠してシャッターチャンスに備えるというやり方もあります。それ以外にも、長距離移動で運転に疲れてしまった場合に仮眠するのにも良いですよね。車中泊は撮影旅行においてはとても便利な宿泊手段なんですよ。

   

   

「同じ道は走らない」
撮影地での時間の使い方と移動のコツ

   

ー 目的地と、そこにいつ行くかが決まったら、あとは当日、撮影するフィールドでの動き方です。良い風景に出会うために、吉村さんはどのように時間を使いフィールドを動かれるのでしょうか?

   

吉村さん:撮影に数日間使えるのであれば、シャッターを切る前の日にフィールドに入ってロケハンすることもあります。例えば、どこかの湖を撮るならば、前の日に行って「ここは朝焼けの風景を狙ってみよう」とイメージを組み立てる、といったことをします。一度フィールドを見ておくのは大事ですね。

   

 

吉村さんにご提供いただいた作例。「この場所はフィールドを移動している日の朝に見つけて、日が傾いたらもっと美しくなりそう、と予想できました。そして夕方再訪してみると、思惑通り素晴らしい風景が広がっていました」と吉村さんは解説します。フィールドを知ることの重要性がうかがえます。

   

ー フィールドを把握しておけば、効率的に動けそうですね。

   

吉村さん:ただ、ロケハンが絶対に必要というわけではありません。僕は「日本で最も美しい村」というテーマで、全国各地の村を撮影し続けているんですが、ひとつの村の撮影に使う時間は、だいたい2日です。初日は役場の方に案内いただいて、その村の人々や暮らしの情景を撮影させてもらう。2日目は自分で車を走らせて、その村のさまざまな風景を撮る、といった流れです。

   

ー ロケハンがなくてもいい、というのは、撮影に長い時間を取れない週末フォトグラファーには心強い言葉です!

   

吉村さん:ロケハンをせずとも、フィールドを動き回って、心ときめく風景に出会ったら、とにかくシャッターを切ってみてほしいです。シャッターを切り続ければ、その中にきっと素敵な作品が見つかるはずですよ。

   

ー そうした「心ときめく風景」に出会うための、動き方のコツなどはありますか?

   

吉村さん:同じ道を走らない、というのがポイントです。動けば動いた分だけ、心ときめく風景に出会える可能性が高まります。「日本で最も美しい村」というテーマの撮影では、村中の道をくまなく車で走り回って被写体を探します。

 

もうひとつのポイントが、時間を変えて走ってみることです。同じ風景でも朝と夕方では光の違いによって異なる表情になり、美しさが変わってきますから。時間も場所もくまなく探っていくので、やはり車は重要ですね。車は撮影旅行に欠かせない、ある種の撮影道具といえるかもしれませんね(笑)

   

 

「長距離を走るので、運転していて楽しい車であることも重要。その意味でもCX-5はとても気に入っています」と吉村さんは愛車について語ります。

   

   

ー もうひとつ伺いたいのは、撮影条件に関してです。せっかく撮影旅行に出かけたのに、「悪天候だった、撮影予定地に人がたくさんいた」など、撮影条件に恵まれなかった場合は、どう対処したらいいでしょうか?

   

吉村さん:僕の場合、すべての状況を受け入れて撮影しています。どんなに条件が悪くても、それはそれでひとつの風景との出会いですから。それに、曇りだとか雨が降っている、みたいな状況は、僕はむしろ他にない作品を生み出す良いチャンスだと思っています。思わぬ場所に人がいた、物があった、みたいな状況も同じです。仮に田園風景の中に鉄塔が建っていたとしたら、僕はむしろ鉄塔をフレームに入れて撮りたい。そうした風景はとても日本的だと感じるからです。一見すると邪魔に感じられるようなものが入っているからこそ、人々の暮らしやストーリーが感じられる、ユニークな1枚になると思います。

   

 

こちらも吉村さんの作例。「錦鯉を撮ろうと出かけたのですが、撮影日はすごい霧。それでも目当ての場所に行ってみたら、こんな一瞬に出会えました」と吉村さんは言います。どんな状況も受け入れて撮ってみよう、と考えるから、こうした幻想的な瞬間に立ち会うチャンスが得られます。

   

「美しさ」「面白さ」を探す旅を楽しもう

   

ー どこにでもシャッターチャンスはあると考えれば、撮影旅行がもっと気軽で楽しいものになりそうですね!

   

吉村さん:もしも撮影旅行に出かけて、条件に恵まれなかったからと撮影を諦めるのではなく、目の前の条件を受け入れて、記録する感覚で「まずは撮ってみよう」と考えるのが大事です。記録する感覚なら、たくさんシャッターを切れるじゃないですか。そうして撮られたたくさんの写真の中で、自分が美しいと思える1枚が、その人にとっての作品になると思います。

 

(2024年6月 取材撮影)

写真家 吉村さんが車選びと車中泊のポイントを解説!

   

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