ロードスター RF 開発物語 Vol.3 1/2

「リトラクタブルハードトップ」の美しい動きを追究して

ルーフシステム設計者 松本 浩一

“だれもが、しあわせになる”。
初代から大切に育み続けてきたロードスターの魂を受け継ぎ、ロードスター RFは開発されました。
意のままにクルマを走らせる歓びをあらゆる人に感じてもらいたいと願い、完成させたロードスター RFの開発の物語をご紹介します。

出口の見えないトンネルを進む
静かでひたむきな開発初期の日々

「3分割されたルーフは、それぞれこのように動きます。リアウインドーは、かなり複雑な軌跡を描いて……こうして、こう動きます」机の上に置かれた、リトラクタブルハードトップのメカニズムを再現した模型。

その高さに視線を合わせるように少し前屈みになって、指先で丁寧に動かしてみせる。さっきまで空を遮っていたルーフが器用に格納され、運転席に部屋の明かりが射し込んだ。そして最後に、ファストバックスタイルを特徴づけるリアルーフがボディと連なるデザインの一部へ綺麗に戻ると、顔を上げて一言。

「こういう感じです。」

ロードスター RFのリトラクタブルハードトップを開発するチームを率いたエンジニアの松本浩一は、この複雑で美しい動きを見せる「新しいリトラクタブルハードトップ」について、誰もが尋ねてみたくなる開発の物語を語り始めました。

「3分割されたルーフは、それぞれこのように動きます。リアウインドーは、かなり複雑な軌跡を描いて……こうして、こう動きます」机の上に置かれた、リトラクタブルハードトップのメカニズムを再現した模型。

その高さに視線を合わせるように少し前屈みになって、指先で丁寧に動かしてみせる。さっきまで空を遮っていたルーフが器用に格納され、運転席に部屋の明かりが射し込んだ。そして最後に、ファストバックスタイルを特徴づけるリアルーフがボディと連なるデザインの一部へ綺麗に戻ると、顔を上げて一言。

「こういう感じです。」

ロードスター RFのリトラクタブルハードトップを開発するチームを率いたエンジニアの松本浩一は、この複雑で美しい動きを見せる「新しいリトラクタブルハードトップ」について、誰もが尋ねてみたくなる開発の物語を語り始めました。

「ロードスターの開発は、まずソフトトップモデルを理想の1台として完成させることを目標に始まりました。リトラクタブルハードトップモデルも創るという計画は、開発の初期からありましたが、両方の都合を予め盛り込むということをしなかったんです。都合というのはすなわち、ハードトップをどのように格納するかということです。私は、ロードスターの開発を皆と共に進めてゆく中で、さてハードトップモデルはどうしたものか、と気になりはじめていました。2013年初頭のことです。」

松本が心配したのは、物理的な制約のこと。小さな器に、大きな器の水をすべて移せないように、柔軟性のあるソフトトップがちょうど収まるだけの空間に、硬質の素材でできたハードトップが入りきらないことは、自明の理でした。

「ロードスターの開発は、まずソフトトップモデルを理想の1台として完成させることを目標に始まりました。リトラクタブルハードトップモデルも創るという計画は、開発の初期からありましたが、両方の都合を予め盛り込むということをしなかったんです。都合というのはすなわち、ハードトップをどのように格納するかということです。私は、ロードスターの開発を皆と共に進めてゆく中で、さてハードトップモデルはどうしたものか、と気になりはじめていました。2013年初頭のことです。」

松本が心配したのは、物理的な制約のこと。小さな器に、大きな器の水をすべて移せないように、柔軟性のあるソフトトップがちょうど収まるだけの空間に、硬質の素材でできたハードトップが入りきらないことは、自明の理でした。

「開発には、いくつかの段階がありました。まず先代のロードスターRHTで採用したメカニズムを踏襲しながらクリアできないかと考えました。すでに発売から10年ほど経ったモデルですが、開閉速度や動作安定性などは今でも競争力があります。そのメカニズムを元にハードトップ部の後端を後ろに引っ張って、その下に生まれる格納スペースを稼ごうとしたり、収納部のカバーを大きくしたり、いろいろ検討しました。ルーフも7分割まで検討しました。

けれども、いずれの検討案も格好がよくない。おまけにルーフを細かく分割しすぎると、今度は格納したときに高さが出てしまって、クルマの背中に荷物を背負ったみたいに飛び出してくるんです。これは困ったな、と。」

「開発には、いくつかの段階がありました。まず先代のロードスターRHTで採用したメカニズムを踏襲しながらクリアできないかと考えました。すでに発売から10年ほど経ったモデルですが、開閉速度や動作安定性などは今でも競争力があります。そのメカニズムを元にハードトップ部の後端を後ろに引っ張って、その下に生まれる格納スペースを稼ごうとしたり、収納部のカバーを大きくしたり、いろいろ検討しました。ルーフも7分割まで検討しました。

けれども、いずれの検討案も格好がよくない。おまけにルーフを細かく分割しすぎると、今度は格納したときに高さが出てしまって、クルマの背中に荷物を背負ったみたいに飛び出してくるんです。これは困ったな、と。」

数え切れない検証の末に姿を見せた
“ファストバックスタイル”という答え

松本が重ねた「ルーフを格納する方法」のための検証は、次第にルーフが格納できない物理的な証明となって積みあがってしまいました。

「何の成果も生まない検証のようですが、こういう地道な作業は、本当の解を導き出すために必要なステップです。1つひとつのアイデアについて馬鹿正直なくらい真面目に検証をすることで、領域をまたいだ開発陣の全員に、何ができて何ができないのかを共有してもらうことができます。そこを踏み台にして、新しい道が切り開かれてゆくのです。」

いよいよロードスター RFの本格的な開発を目前に開かれた全体会議の場で、松本はそれまでの検証の成果を発表しました。
それは、現状の発想のまま突き進んでも、美しさを維持したままハードトップをすべて格納することは不可能であることを全員に納得させるものでした。

松本が重ねた「ルーフを格納する方法」のための検証は、次第にルーフが格納できない物理的な証明となって積みあがってしまいました。

「何の成果も生まない検証のようですが、こういう地道な作業は、本当の解を導き出すために必要なステップです。1つひとつのアイデアについて馬鹿正直なくらい真面目に検証をすることで、領域をまたいだ開発陣の全員に、何ができて何ができないのかを共有してもらうことができます。そこを踏み台にして、新しい道が切り開かれてゆくのです。」

いよいよロードスター RFの本格的な開発を目前に開かれた全体会議の場で、松本はそれまでの検証の成果を発表しました。
それは、現状の発想のまま突き進んでも、美しさを維持したままハードトップをすべて格納することは不可能であることを全員に納得させるものでした。

「私のプレゼンテーションを受けて、エクステリアデザイナーの南澤さんが、ファストバックスタイルのスケッチをその場で描いて、皆に提案しました。実は、その会議の日の少し前にチーフデザイナーの中山さんが私のところへふらりとやってきて、例えばリアルーフを残したファストバックスタイルだったら、リアルーフ以外のルーフを格納することはできると思うか?と意見を求められたことがありました。私は、南澤さんのスケッチを見たときに、あのとき中山さんに、それだったらたぶん入りますと答えたことを思い出しました。なるほどそう来たか、と感じました。」

ここまでの松本の役目は、できないことを証明するということでした。けれども、松本が示したこの結果がなければ、ファストバックスタイルで行こう!という真の解を見つけるに至らなかったかもしれません。このような検証を経て、目指すロードスター RFの姿は見つかりました。ここからは、松本のもう1つの本領、創造の力が発揮されることになります。

「私のプレゼンテーションを受けて、エクステリアデザイナーの南澤さんが、ファストバックスタイルのスケッチをその場で描いて、皆に提案しました。実は、その会議の日の少し前にチーフデザイナーの中山さんが私のところへふらりとやってきて、例えばリアルーフを残したファストバックスタイルだったら、リアルーフ以外のルーフを格納することはできると思うか?と意見を求められたことがありました。私は、南澤さんのスケッチを見たときに、あのとき中山さんに、それだったらたぶん入りますと答えたことを思い出しました。なるほどそう来たか、と感じました。」

ここまでの松本の役目は、できないことを証明するということでした。けれども、松本が示したこの結果がなければ、ファストバックスタイルで行こう!という真の解を見つけるに至らなかったかもしれません。このような検証を経て、目指すロードスター RFの姿は見つかりました。ここからは、松本のもう1つの本領、創造の力が発揮されることになります。

  • サイト内に登場するロードスター RFは海外仕様車になります。一部の仕様が日本仕様車と異なりますので予めご了承ください。
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