NAロードスター
幾つもの縁がもたらした純正アルミホイールの復刻

2019年、浜松の老舗メーカーが初代ロードスターのアルミホイールの復刻を実現した。当時のアルミホイールをよく知る彼らにとっては、
「現在」の工程や製法で「オリジナル」の雰囲気を再現してほしいという
ファンとマツダの要求には、一筋縄では応えられない苦労があった。
30年という時を経て、実際に彼らがどのように復刻にこぎつけたのか、
そしてこれからのクルマ社会に対し、どのような思いを馳せているのかをインタビューした。

 

絶えることのなかったスポーツカーへの情熱とロードスターとの縁

栗林 操 
OEM営業統括本部OEM営業グループ部長

栗林 操 
OEM営業統括本部OEM営業グループ部長

栗林:社長の鈴木は、若いころにロータス・エラン、MGB、ヒーレースプライトなどのオープンカーが大好きでした。今でも会社に保管してあります。初代ロードスターのことも非常に好きで、国内で発売されることをすごく楽しみにしていました。鈴木はもちろんのこと、私や他の多くのエンケイ社員も買いました。そればかりか、”アライフ*1という専用ホイールを発売しました。純正ホイールの諸元を守ることでロードスターの走りを大切にしながら、60年代のブリティッシュ・ライトウェイトスポーツのホイールをモチーフにデザインしました。その広告も凝っていて、私の先輩がロードスター誕生の地アメリカを舞台に、アライフを装着してルート66を走りながら取材したものです。こんな風にエンケイは車好きな会社ですから、旧車を大事にすることが難しい時代に、マツダさん自らレストアや部品の復刻に取り組まれると聞いて、今回のお話には二つ返事で引き受けさせて頂きました。

*1 アライフの当時の広告も残っている。ロードスターという手頃なオープンスポーツカーでの気ままに旅を表現するため、スタインベックの小説「アメリカを探して チャーリーとの旅」を題材にしたものだ。

地元木型屋職人のアイデアから始まった

宇佐美:復刻の手始めに、当時の仕様書*2や図面を参考に引っ張り出し、開発の計画を立て始めました。ですが、形状や色情報が不十分なので、現在の開発や製造の工程をそのまま当てはめられないことに不安が有りました。その中でも、最も困ったことはホイール形状の3次元データ化です。現在の開発はデータで性能や製造の検証を行いますが、80年代当時は木で製品形状を再現した木型で開発していた為、当然、CADデータはありません。そこで、馴染みの木型屋さんに相談したところ、木型用の3次元で形状を測定できるスキャナーが使えるかもしれない、という話になりました。その、スキャナーの用途は昔の製品の復元なのですが、残念ながら、アルミホイールのような、複雑で大きな製品での実績はありませんでした。ただ、木型屋さんは、ホイールへの活用に非常に興味を示してくれたので、試してみようという事になりました。

宇佐美 彰彦
技術開発統括本部OEM技術グループ係長

*2 当時の仕様書。復刻で苦労したショット工程や塗装仕様が記載されている。

当時の仕様書

北田 智之 
OEM営業統括本部OEM営業グループ課長

北田 智之 
OEM営業統括本部OEM営業グループ課長

北田:しかも、復刻のお話を丁度良いタイミングで頂きました。2~3年前では大型のスキャナーが有りませんでしたから、お断りしていたと思います。最近になって使用できるようになり、今回の取り組みでホイール以外の旧型部品への適用の可能性も見えてきました。スキャナーがあれば旧部品のデータから型の製作ができますから、金型を保管する必要もありません。

栗林:ここ浜松は、昔からオートバイの町ですから、ヤマハさん、スズキさんがいて、エンケイがいます。そして、基盤産業として小さな工場が多くあります。加工屋さん、試作屋さん、木型屋さん・・・そこには腕の良い職人さん達がいて、我々を支えてくれる土地柄だからこそ、今回の復刻が実現できたのだと思います。

ファンの厳しい目は当時の工法までも復活させた

宇佐美:生産工程でも、いくつか課題がありました。このアルミホイールの特徴であるザラザラした表面を現在の工程の機械や材料でどう再現するか、プラントマネージャーと苦悩しました。そのために、当時のブラスト機*3を再び動かそうという事になりましたが、生産現場へは頼みにくかったです。

小西:当時のブラスト機が残っていたのですが、しばらく不動でしたので動かすだけでもメインテナンス費用が掛かりました。また、本体だけではなく、砂を集める大型の集塵機まで動かす必要がありました。それと当然なんですが、検査の現場でも若い検査員は当時の表面仕上げを見たことが無かったので、検査方法を知っている私たちが判定基準を教えました。

宇佐美:ショット肌の実現と同時に、塗装方法も検討しました。現在の工程である粉体塗装は厚く均一な塗膜が売りなので綺麗に仕上がるのですが、オリジナルのザラザラな表面には不向きです。そこで、当時と同様、薄い塗膜厚でも塗装が可能な溶剤を採用しました。開発当初は、現在の工程で試作品を製造しマツダさんに納品しました。しばらくして、ロードスターのファンミーティングでお客様から「オリジナルに比べツルツルしていて綺麗すぎる。もう少し雰囲気が欲しい」とフィードバックが有り、対応について社内で議論しました。やはり、せっかく復刻するのだからファンの方たちに喜んでもらいたいと思い、結果的には、工程も復刻した形になりました。

*3:細かい砂や金属を高圧で製品表面にぶつける機械。これを当時と同じ機械にして、当時と同じ様な表面に仕上げる。

塗装色についても、社内や塗料メーカーには当時のデータが残っていませんでしたので、記憶を思い起こしながら、色合わせを行いました。広島で打ち合わせの際に、マツダミュージアムに展示している新車同様のアルミホイールを見せていただき、日に当たらずもっとも経年変化が少ないであろうキャップに隠れている中心部分がイメージに合ってましたので、これを基準色として、お借りすることにしました。

小西 修 
製造統括本部 PBグループ グループ長

小西 修 
製造統括本部 PBグループ グループ長

「復刻」という形で開拓する「新たな」フィールド

宇佐美:当時、ロードスターに乗っていた人たち、栗林さんもそうですが、製品の事を聞きつけた社内の人たちに、色々と話しかけられました。知り合いから譲ってもらったNAロードスターを所有している若い社員が復刻ホイールを是非欲しいと話しかけてきたり、たまたますれ違った方が声をかけてきたりもします。当時の作り方を思い出されながら今回はどうしているのか興味深く聞かれたりもしました。

栗林:ロードスターは、今も路上を走っていて、身近にあるから、、、みんながなんとなく存在を分かっている。当時を知っている人、若い人、年齢差で30歳離れていても話ができる車は素晴らしく、稀有な存在だと思います。マツダさんのブランドは、だれが乗っても楽しい車作りをしてくれることだと感じます。だから、エンケイの中でも重層的にロードスターの話ができるのです。エンケイのアフターマーケット用のブランドでは、テントをかついで旧車のミーティングへ参加しています。フェアレディ―Zとビンテージカーの集まりや、ミニのイベントにも参加していますけど、今回の取り組みを通じて、ロードスターのイベントにも参加してみたいですね。

北田:そうやって旧車の世界へ”復刻”という行為で参画することで、自動車社会におけるエンケイの味になると思います。もちろん、ホイール以外でも”復刻”があれば、普段と違う経験が出来る良い機会だと感じましたし、今後も自動車文化へ貢献したいです。

ライトウェイトスポーツカーから始まり、旧車やファンミーティングへの参加まで飛び出したのは、クルマは楽しく人を幸せにすることを知っているメーカーだからこそだろう。マツダに共感し、情熱をもって復刻にチャレンジして頂いたことに感謝して、同じ志を持つ彼らと共に、今後もクルマ文化を創っていきたい。

エンケイの皆さん

今回取材したエンケイの皆さん

今回取材したエンケイの皆さん

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