初代NAロードスターのカタログに秘められたストーリー

―  「だれもが、しあわせになる。」  ―

皆さんは知っていますか?
初代NAロードスターのカタログの最初に書かれている
「だれもが、しあわせになる。」というメッセージのこと。

「クルマを運転して笑顔になったり、クルマを通じて人との繋がりが生まれたり、そんな人とのふれあいの中で心が通い、感動を与えたり勇気をもらったりして生活を楽しんでいます。」ロードスターのお客様と話をさせていただくとこんなことをよく耳にします。そんなお客様の話を聞くたびに、やり甲斐が生まれ、歓びと共に情熱を注ぐモチベーションをいただいています。

2019年は初代NAロードスターの誕生から30周年のアニバーサリーイヤーであり、世界中でファンミーティングや記念イベントが沢山行われました。また、2019年11月には日本自動車殿堂の歴史遺産車にNAロードスターが選ばれるという名誉もいただきました。

そんなNAロードスターを語るとき、カタログの最初に書かれている「だれもが、しあわせになる。」というメッセージがこのクルマとお客様とのありたい姿を的確に予言しているように思えます。そのメッセージがどうやって生まれたのかを知るために、ロードスターアンバサダーの山本修弘が、当時を知る関係者と対談した際の様子をお伝えします。

2019.11.15 日本自動車殿堂での歴史遺産車の表彰式

2019.11.15 日本自動車殿堂での歴史遺産車の表彰式

インタビューに答えてくださる駒木経郎さん(写真中央)

インタビューに答えてくださる駒木経郎さん(写真中央)

ロードスターカタログより、「人馬一体、ということ。」

ロードスターカタログより、「人馬一体、ということ。」

「だれもが、しあわせになる。」というカタログのメッセージはNAロードスター乗りに限らず、NB,NC,NDロードスター乗りも知っているフレーズです。このメッセージを生み出したコピーライターの駒木経郎さんを訪ね、誕生の経過を伺いました。

山本:まず作り始めた時の状況を教えてください。

駒木さん:昔のイギリスの小さいスポーツカーを再構築するという、ロードスターのコンセプトはシンプルで分かりやすいものでした。どうやって生まれたのかという説明がなくても、クルマを実際に見て乗せてもらうと、楽しさを非常にストレートに感じることができました。だからといって、簡単には買えないですよね。なぜかというと、ロードスター1台では済まないですし、東京だったら2台分の車庫を持つことも難しい、だけど乗ってしまうと欲しいと強く思うわけです。なので正直言うと、「だれもが、しあわせになる。」という一つ手前の「ほんの少しの勇気を持てば」というフレーズがミソなんです。なかなか勇気は持てないけど、それを持てる人はいるはずだ。きっと一歩を踏み出してくれる人がいるはずだと。

山本:カタログにはネガティブなことも書かれてありますよね。

駒木さん:ロードスターは小さく、室内は狭い、荷物も沢山は乗らない、しかもオープンカー。でも、かわいくてかっこ良くて楽しいクルマだ。だから「しあわせになる」というか、逆に「しあわせになれる人は限られている」そんなことを伝えたかったのだと思います。

山本:こういうメッセージが生まれる瞬間っていうのはあるのですか?例えば、色々アイデアを出して選ぶとか、ふっと湧いてくるとか?

駒木さん:少なくともブレーンストーミングでアイデアを沢山だすとかはしません。どんな感じで作ろうかとか、世界観をどうしようとか、そういうのはあります。コピーは一人の作業です。コピーは感性のように思うけど、実はロジックの塊なんです。

ただロジックの塊に見えてしまうといけない。ロジックがあるようには見せないけど、しっかりとロジックで組んでいかないと文章は書けないと思います。このクルマの特性はこうだし、みんな乗りたいから乗る。一方で誰もが簡単には買えないよな。とかいろいろ考えるわけです。そうすると、このカタログにコピーとして書かれているストーリが出てくるんです。言ってみれば、最後に「ほんのちょっとの勇気を持てば楽しくなるよ」っていうストーリーを考えて、それがかっこよく見れるようなコピーを考えていくんですね。

山本:なるほど、ちゃんとロジックが立ってシナリオが生まれ、ストーリーになっていくんですね。

駒木さん:私は、やっぱりクルマが好きなんです。クルマのメカが好きとかではなく、その存在が好きなんです。子供の時からおやじと一緒にディーラーとかを回っていました。クルマが自分にとってHappyな存在なんです。クルマと人の関わりが道具でもなく、見栄の道具でもなく、気持ちがあったかくなるんですよ。ロードスターはクルマの存在がそもそもピュアだったから余計に好きになれたんだと思います。

山本:駒木さんがおっしゃったピュアという言葉は、私たちも今ひしひしと感じています。

駒木さん:みんなが共有しやすいというのがコピー。わかりやすさが大事だと思います。

山本:ロードスターファンは、みんな知っている「だれもが、しあわせになる。」そのコピーに込められたピュアな想いを深く知ることが出来ました。駒木さん、どうもありがとうございました。

初代NAロードスターのカタログ制作の裏側

一般的に新車カタログは綺麗な新車のヒーローショットが一面を飾ります。しかし、初代NAロードスターのカタログは写真ではなくイラストが採用されています。なぜ写真ではなくイラストになったのか?駒木さんへのインタビューに続き、当時のカタログ制作に携わったデザインルームヒロ Dステーションの梶田恵美さんにお話を伺いました。

初代NAロードスターのカタログ

初代NAロードスターのカタログ

初代NAロードスターのカタログ

初代NAロードスターのカタログ

フランス ニースでのビデオカタログ撮影の様子

(フランス ニースでのビデオカタログ撮影の様子)

山本:梶田さんは当時カタログデザイン業者のデザインルームヒロで制作進行&マネジメント業務に携わっていたと伺いましたが、その時の様子はいかがだったのでしょうか?

梶田さん:マツダでは当時、MGやエランのようなクルマを有志が集まって開発していると聞いていました。このような開発体制/有志エンジニアが存在していることは、業界でも有名でした。マツダとの関わりのきっかけは、ブリヂストンモータースポーツ経由で「ポールポジション」の制作を受注したことです。きっかけとなった「ポールポジション」は、クルマよりも人を見せることを魅力とした企画であり、ロードスター/コスモ/カペラ/RX-7のタイミングで年2回、計25冊制作しました。

山本:ポールポジションは知っています。私は初号からルマン優勝まで持っていますよ。素敵なマガジンですよね。ロードスターのカタログ制作はどんな様子でしたか?

梶田さん:ユーノスブランドの話は、アドインターナショナルと一緒に行いました。コピーライターとデザインが一緒に組み立てていく仕事のやり方でした。当時は時代背景をカタログに反映するための取組なども行っていたと記憶しています。

山本:時代背景をカタログに反映させる取り組みは興味深いですね。そうなると当然ながら「作り手の想い」も一緒に込めなければいけないと思いますが、当時の主査の平井さんとはお会いになりましたか?

梶田さん:平井さんと直接会ってお話をすることはなかったと思いますが、「作り手の想い」という点では、過去にないユーノスロードスターを「絶対につくる」という強い意志を感じたことを覚えています。

山本:カタログ制作のエピソードを教えていただきたいと思います。特にあの最初のページのイラストがどういう経過で生まれたのかとても興味があります。

梶田さん:マツダからのカタログの内容に対する要求はあまり細かくなく、“こういうクルマだから考えて!”という感じでした。マツダからのオーダーを受け、複数の提案を作成しました。その中の1つにクルマをイラストで表現するという案がありました。デザインルームヒロ側ではイラスト案が本命だったんです。イラストとした狙いは以下の3つでした。

1) 商品の特徴である、ライトウェイト感を表現できる

2) 見たお客さまが自分のクルマを想像できる写真にしてしまうと、あくまでその車は自分が買うものとは別のものと感じてしまい面白くない

3) 可愛く見せたい、愛着がわく感じにしたい

イラスト案については、最初はマツダ側担当者が上長に「漫画を載せるのか!?許さん!」と強く叱られたようで、「社内で認められないのでは?」と難色を示されました。

山本:それは辛いですね。想いを込めて表現することが伝わらなかったのですね。それでも、諦めなかったんですね!

梶田さん:そうなんです。チームのメンバーはイラストの狙いは必ずや伝わるはず、諦めずに作ろうと写真とイラストの2案を並行して作るようにしました。マツダの担当者もそのことに同意してくれたんです。

山本:それからどうなったのですか?

梶田さん:はい、最終の決定会議で2案を提出したところ、イラスト案について、反対していた上長から「いいねえ!」という反応をもらえました。

山本:それは良かったですね、やった!という感じだったんでしょうね。

梶田さん:そうですね、頑張って良かった!自分たちの取り組みが間違っていなかったと勇気づけられる思いでした。

山本:ビデオカタログの制作も行ったと伺いましたが、そちらはいかがでしたか?

梶田さん:制作はニースで実施しました。カンヌから近く映画会社が多い環境ということで、ユニオンが整っており、「犬を入れたシーンにしたい!」や「カモメを増やしたい!」など現地で出た発想にクイックに対応できる体制で、とても助かりました。苦労はしましたが充実していたと記憶しております。

山本:最後にカタログ制作を振り返っていかがですか?

梶田さん:カタログの最初のメッセージの「だれもが、しあわせになる。」というその理由を私なりに解釈していることがあります。それは、ロードスターに触れたときに幸せホルモン(オキシトシン)が出るからではないかと思っています。ロードスターは幸せになるクルマであると同時に、元気になれるクルマでもあると思います。

<ロードスターアンバサダー山本の取材後記>
インタビューを終え、カタログのコピー/イラストの秘密や、当時のカタログ製作メンバーの想いを込めた献身的な取り組みを知ることができました。そしてNAロードスターは、“発売して終わり”のクルマではなく、サービス領域も含め、後からいろいろな広がりがありました。発売から30年経過した初代NAロードスターは、メーカーだけのものではなくなりました。世界中の沢山の人たちが+αの世界を描いてくれるようなクルマに育っていきました。そのような広がりに繋がったのは、開発も伝える役割のメンバーがもっていた感性が、カタログに込めたメッセージ通じて、このような空気感を一緒に感じながら取り組んだことが大きな成果をもたらしたのではないか、そう思いました。

<ロードスターアンバサダー山本の取材後記>
インタビューを終え、カタログのコピー/イラストの秘密や、当時のカタログ製作メンバーの想いを込めた献身的な取り組みを知ることができました。そしてNAロードスターは、“発売して終わり”のクルマではなく、サービス領域も含め、後からいろいろな広がりがありました。発売から30年経過した初代NAロードスターは、メーカーだけのものではなくなりました。世界中の沢山の人たちが+αの世界を描いてくれるようなクルマに育っていきました。そのような広がりに繋がったのは、開発も伝える役割のメンバーがもっていた感性が、カタログに込めたメッセージ通じて、このような空気感を一緒に感じながら取り組んだことが大きな成果をもたらしたのではないか、そう思いました。

初代NAロードスター、スペシャルパッケージとVスペシャルパッケージ車

初代NAロードスター、スペシャルパッケージとVスペシャルパッケージ車

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