SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE
歩くように自然に感じられる乗り心地。そのカギは、“骨盤”でした。
SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE(以下、SKY-VA)は、私のこれまでのキャリアの集大成といえるかもしれません。
サッカーボールを追いかけていた時代、テストドライブに明け暮れた時代、
そして私にいろんな気づきを与えてくれた、素晴らしい方々との出会い。そして社内の仲間たち。
そのすべてが、骨盤をキーにしてクルマをつくるという前代未聞の発想につながりました。
ほんの少しの出会いや機会が失われただけで、この新技術は実現できなかったような気がします。
それぐらいSKY-VAは、前例のない開発プロセスから誕生したのです。
サッカー選手から開発者へ。
誰にも負けない強い気持ちで、子供の頃の夢をかなえました。
まずはSKY-VAの話をする前に、その発想の土台をつくった私自身の経歴からお話しましょう。じつは私は、マツダにはサッカー選手として入社したんです。現在のサンフレッチェ広島、当時はマツダサッカークラブですね。サッカーでは高校時代にユース代表に選ばれたこともあったのですが、将来は幼い頃からの夢だったクルマに携わる仕事をしたかったのです。
そしてマツダに入社し、実験研究部の配属となりました。そこで見たのが、情熱をもって真剣にクルマづくりに取り組んでいる開発者たちの姿だったんです。
まずはSKY-VAの話をする前に、その発想の土台をつくった私自身の経歴からお話しましょう。じつは私は、マツダにはサッカー選手として入社したんです。現在のサンフレッチェ広島、当時はマツダサッカークラブですね。サッカーでは高校時代にユース代表に選ばれたこともあったのですが、将来は幼い頃からの夢だったクルマに携わる仕事をしたかったのです。
そしてマツダに入社し、実験研究部の配属となりました。そこで見たのが、情熱をもって真剣にクルマづくりに取り組んでいる開発者たちの姿だったんです。
その後、サッカーは引退。知識も技術もありませんでしたが、実験研究部で眺めていた操縦安定性能の部署に行きたいと上司に伝えたのです。だったら、その前にクルマをイチから学ぶのにいいところがあると、実車信頼性能の部署を紹介してもらいました。耐久走行を行うところですね。毎日ひたすらクルマを運転して、分解し、検証する。当時は3交代制で、夜も走るのです。疲れてくると、逆にクルマの良し悪しがよく分かります。他社のクルマに乗ると、また感覚の違いが分かります。何が違うのか? 構造か? 考え方か? 自分だったらどうする? そんなことをずっと考えて運転していました。そしてもうひとつ、重要な出会いがありました。ロードスターです。入社後、初代ロードスターが発売され、がんばってすぐに手に入れました。とにかく走りが楽しかったですね。クルマといえばロードスターのこと。そんな私なりの基準ができたのも、その頃でした。
その後、サッカーは引退。知識も技術もありませんでしたが、実験研究部で眺めていた操縦安定性能の部署に行きたいと上司に伝えたのです。だったら、その前にクルマをイチから学ぶのにいいところがあると、実車信頼性能の部署を紹介してもらいました。耐久走行を行うところですね。毎日ひたすらクルマを運転して、分解し、検証する。当時は3交代制で、夜も走るのです。疲れてくると、逆にクルマの良し悪しがよく分かります。他社のクルマに乗ると、また感覚の違いが分かります。何が違うのか? 構造か? 考え方か? 自分だったらどうする? そんなことをずっと考えて運転していました。そしてもうひとつ、重要な出会いがありました。ロードスターです。入社後、初代ロードスターが発売され、がんばってすぐに手に入れました。とにかく走りが楽しかったですね。クルマといえばロードスターのこと。そんな私なりの基準ができたのも、その頃でした。
自分の感覚を信じて仕上げた“マツダの走り”。
その先に、新たなクルマづくりが見えてきました。
それから5年後、念願の操縦安定性能の部署に異動となりました。最初に手がけたのはトラックのタイタンダッシュ。顧客が驚くほど、しなやかな走りに仕上げましたよ(笑)。その後、ひょんなことからヨーロッパ駐在となりました。マツダの操縦安定性能に関する代表として、世界有数の自動車メーカーとグループ全体のブランド戦略についてディスカッションする機会が多くなりました。世界に認められるブランドって何だろう? マツダのブランドとは? それってロードスターなんじゃないか? そこから、そんなことを思い始めるのです。
それから5年後、念願の操縦安定性能の部署に異動となりました。最初に手がけたのはトラックのタイタンダッシュ。顧客が驚くほど、しなやかな走りに仕上げましたよ(笑)。その後、ひょんなことからヨーロッパ駐在となりました。マツダの操縦安定性能に関する代表として、世界有数の自動車メーカーとグループ全体のブランド戦略についてディスカッションする機会が多くなりました。世界に認められるブランドって何だろう? マツダのブランドとは? それってロードスターなんじゃないか? そこから、そんなことを思い始めるのです。
帰国すると、グローバルモデルをやらせてほしいと願い出て、プレマシーを担当しました。そのプレマシーは、今まで得た知識と技術、経験のすべてをカタチにしました。重心の高いミニバンには、そんな走りは合わない。社内的にはそんな声も出たのですが、試乗会では著名なジャーナリストの方々が大絶賛してくれたのです。「これだよ、これがマツダの走りだよ!」と。そのプレマシーは、すごく高価なパーツを使ったとか、革新的な技術を導入したとかではないんです。考え方を革新することで“マツダの走り”を生み出したのです。
これがきっかけで、当時の開発のトップから「この考え方で、今後のクルマ全部仕上げろ」と言われたのです。そこからですね。マツダの走り、人間中心のクルマづくりって何だろうと研究を始めたのは。それが、今回のSKY-VAの誕生につながっています。
帰国すると、グローバルモデルをやらせてほしいと願い出て、プレマシーを担当しました。そのプレマシーは、今まで得た知識と技術、経験のすべてをカタチにしました。重心の高いミニバンには、そんな走りは合わない。社内的にはそんな声も出たのですが、試乗会では著名なジャーナリストの方々が大絶賛してくれたのです。「これだよ、これがマツダの走りだよ!」と。そのプレマシーは、すごく高価なパーツを使ったとか、革新的な技術を導入したとかではないんです。考え方を革新することで“マツダの走り”を生み出したのです。
これがきっかけで、当時の開発のトップから「この考え方で、今後のクルマ全部仕上げろ」と言われたのです。そこからですね。マツダの走り、人間中心のクルマづくりって何だろうと研究を始めたのは。それが、今回のSKY-VAの誕生につながっています。
“骨盤を立てる”
マツダにしかできないやり方で、世界を目指そうと訴えました。
その頃、操縦安定性能の研究を兼ねつつ、また何かで全国レベルを目指したいという気持ちになり、オフロードバイクのエンデューロレースを始め、とある世界を知るインストラクターのライディングレッスンを受ける機会があったのです。彼は「骨盤を立てて乗らないと、バイクは操れない」としきりに言います。暴れるバイクを腕で押さえつけるんじゃなくて、バランスを取りながら、バイクが行きたがっている方向に自然に行かせてやるのだと。やってみると、全然疲れないし、集中力が持続し、すごくスムーズに速く走れます。おかげで、全日本の一番下のクラスで優勝することができました。骨盤を立てることの大事さを、身をもって感じたのです。
その頃、操縦安定性能の研究を兼ねつつ、また何かで全国レベルを目指したいという気持ちになり、オフロードバイクのエンデューロレースを始め、とある世界を知るインストラクターのライディングレッスンを受ける機会があったのです。彼は「骨盤を立てて乗らないと、バイクは操れない」としきりに言います。暴れるバイクを腕で押さえつけるんじゃなくて、バランスを取りながら、バイクが行きたがっている方向に自然に行かせてやるのだと。やってみると、全然疲れないし、集中力が持続し、すごくスムーズに速く走れます。おかげで、全日本の一番下のクラスで優勝することができました。骨盤を立てることの大事さを、身をもって感じたのです。
さらに、サッカーのシニアの全国大会で、膝を負傷して2カ月間の入院したときのこと。歩けなくなった私は、“人間はどうやって歩くのか”ということに興味を覚え、先生に疑問を片っ端から質問したのです。そして言われたのが“人の動きのすべては、歩行に集約される。骨盤が立っていないと、美しく歩けない”ということ。また骨盤です。人間の自然な動作のカギは、骨盤にあるのかもしれないと感じ始めました。
退院後、興奮気味に骨盤の話をしても、誰もが「はあ?」という反応です。理解を示してくれたのが、技術研究所で人間研究をしていた千葉さんでした。人間の動きを徹底的に研究していた千葉さんは、「骨盤が立った状態じゃないと、人はスムーズに動けない」という話をしてくれ、私たちはすぐに意気投合しました。
さらに、サッカーのシニアの全国大会で、膝を負傷して2カ月間の入院したときのこと。歩けなくなった私は、“人間はどうやって歩くのか”ということに興味を覚え、先生に疑問を片っ端から質問したのです。そして言われたのが“人の動きのすべては、歩行に集約される。骨盤が立っていないと、美しく歩けない”ということ。また骨盤です。人間の自然な動作のカギは、骨盤にあるのかもしれないと感じ始めました。
退院後、興奮気味に骨盤の話をしても、誰もが「はあ?」という反応です。理解を示してくれたのが、技術研究所で人間研究をしていた千葉さんでした。人間の動きを徹底的に研究していた千葉さんは、「骨盤が立った状態じゃないと、人はスムーズに動けない」という話をしてくれ、私たちはすぐに意気投合しました。
骨盤を立てること。これを人間中心のクルマづくりの核とするべきだ。私は千葉さんと一緒に、社内でプレゼンテーションをしました。クルマは座って運転するもの。だったら着座位置にある骨盤から逆算していけば、理想的なクルマができるはずだ。当時は、限界領域までの過渡特性をどうコントロールするかとか、今までの延長線上の考え方が主流だったのです。「その方向のクルマづくりでは、いつまで経っても欧州車には勝てないし、世界一にはなれない。マツダだけにしかできない、新しい人間中心のクルマづくりで世界を目指そう」。そう伝えると、社内のメンバーも次第に耳を傾けてくれるようになり、共創の輪が広がっていきました。
骨盤を立てること。これを人間中心のクルマづくりの核とするべきだ。私は千葉さんと一緒に、社内でプレゼンテーションをしました。クルマは座って運転するもの。だったら着座位置にある骨盤から逆算していけば、理想的なクルマができるはずだ。当時は、限界領域までの過渡特性をどうコントロールするかとか、今までの延長線上の考え方が主流だったのです。「その方向のクルマづくりでは、いつまで経っても欧州車には勝てないし、世界一にはなれない。マツダだけにしかできない、新しい人間中心のクルマづくりで世界を目指そう」。そう伝えると、社内のメンバーも次第に耳を傾けてくれるようになり、共創の輪が広がっていきました。
プレゼンの最終兵器は、“健康器具”。
偶然の出会いが、開発を大きく動かしました。
骨盤を立てることで、より自然に運転できるようになる。このことは、いろんな研究からわかってきたのですが、その効果をうまく説明する方法は見つかっていませんでした。ある日、自宅のクーラーが不調になり、私は妻と家電量販店に出かけました。そこで目にしたのが、骨盤体操をサポートする健康器具です。それは骨盤を前後左右に揺らすことで骨盤のゆがみを矯正するというもので、その器具にバランスよく座ると、自然と骨盤が立った状態になるのです。
骨盤を立てることで、より自然に運転できるようになる。このことは、いろんな研究からわかってきたのですが、その効果をうまく説明する方法は見つかっていませんでした。ある日、自宅のクーラーが不調になり、私は妻と家電量販店に出かけました。そこで目にしたのが、骨盤体操をサポートする健康器具です。それは骨盤を前後左右に揺らすことで骨盤のゆがみを矯正するというもので、その器具にバランスよく座ると、自然と骨盤が立った状態になるのです。
私はひらめきました。すぐに妻に座ってもらい、「交差点を左に曲がるときを思い出して、この指先を見ながらハンドルを握ったつもりで左にゆっくり切ってみて」と言いました。私の人差し指に目線を向けてもらい、指を左に動かすと、バランスを崩すことなく、スムーズに体が左に動いたのです。これだ!と思いました。骨盤が立っていれば、体は自然にバランスを取る。この健康器具の仕組みを、クルマ全体で再現すればいいのだ。頭の中を覆っていたもやもやが、一気に弾けました。
そして後日、新世代モデルのコンセプト試乗会に、会長、社長、副社長が三次試験場にやってきました。通常行うコンセプトの説明は一切なし。例の健康器具を取り付けただけの試乗車を用意しました。最初は怪訝な顔をされましたが、まずは後部座席に乗ってもらい、数十メートルほどの比較試乗をすると、「何だこれは! 何が起こってるんだ! すごいじゃないか!」と(笑)。その後、運転席に乗っていただき、テストコースを周回。助手席から、こういう考え方のクルマを造りたいんですと説明すると、「よし、徹底的にやれ!」と大号令がかかりました。そうして骨盤をキーにした人間中心のクルマづくりが、本格的にスタートしたのです。
私はひらめきました。すぐに妻に座ってもらい、「交差点を左に曲がるときを思い出して、この指先を見ながらハンドルを握ったつもりで左にゆっくり切ってみて」と言いました。私の人差し指に目線を向けてもらい、指を左に動かすと、バランスを崩すことなく、スムーズに体が左に動いたのです。これだ!と思いました。骨盤が立っていれば、体は自然にバランスを取る。この健康器具の仕組みを、クルマ全体で再現すればいいのだ。頭の中を覆っていたもやもやが、一気に弾けました。
そして後日、新世代モデルのコンセプト試乗会に、会長、社長、副社長が三次試験場にやってきました。通常行うコンセプトの説明は一切なし。例の健康器具を取り付けただけの試乗車を用意しました。最初は怪訝な顔をされましたが、まずは後部座席に乗ってもらい、数十メートルほどの比較試乗をすると、「何だこれは! 何が起こってるんだ! すごいじゃないか!」と(笑)。その後、運転席に乗っていただき、テストコースを周回。助手席から、こういう考え方のクルマを造りたいんですと説明すると、「よし、徹底的にやれ!」と大号令がかかりました。そうして骨盤をキーにした人間中心のクルマづくりが、本格的にスタートしたのです。
広島から世界に挑む同志として。
マルニ木工の工房から、ヒントと勇気をもらいました。
SKY-VAを実現するには、これまでのクルマづくりとはまったく異なるアプローチが必要となりました。何よりも重要なのは、骨盤を立てるシートの開発です。大事なのは構造。形状のみならずフレームまで計算に入れて、シート全体の構造を見直しました。理想としては、きちっとしたシートの上に座ると、シートと人間が一体になる。そんなフィット感を目指したのです。
どうすれば理想に近づけるのか? ヒントを求めて広島市内のインテリアショップをめぐっているときに衝撃的な出会いがありました。それは無垢の木を削ってつくられた美しい椅子でした。クッションも何もない。でも、計算し尽くされた曲線がお尻や腰に心地よくフィットします。マルニ木工のHIROSHIMAという椅子でした。感激して話をしていると、「マツダさんのコスモスポーツのステアリングやシフトノブも、うちが手がけたんですよ」と教えてもらいました。何かの縁を感じ、開発スタッフと製作現場を見学させてもらうことにしました。
SKY-VAを実現するには、これまでのクルマづくりとはまったく異なるアプローチが必要となりました。何よりも重要なのは、骨盤を立てるシートの開発です。大事なのは構造。形状のみならずフレームまで計算に入れて、シート全体の構造を見直しました。理想としては、きちっとしたシートの上に座ると、シートと人間が一体になる。そんなフィット感を目指したのです。
どうすれば理想に近づけるのか? ヒントを求めて広島市内のインテリアショップをめぐっているときに衝撃的な出会いがありました。それは無垢の木を削ってつくられた美しい椅子でした。クッションも何もない。でも、計算し尽くされた曲線がお尻や腰に心地よくフィットします。マルニ木工のHIROSHIMAという椅子でした。感激して話をしていると、「マツダさんのコスモスポーツのステアリングやシフトノブも、うちが手がけたんですよ」と教えてもらいました。何かの縁を感じ、開発スタッフと製作現場を見学させてもらうことにしました。
工房では、熟練の職人さんが繊細な手仕事で木を削っていました。わずか0.0数ミリ以下の世界です。その姿は、マツダのデザインスタジオのクレイモデラーとも重なりました。話を聞くと、HIROSHIMAという椅子は、世界に通用する製品を造りたいと、著名なプロダクトデザイナーの深澤直人さんと組んで開発したものでした。理想の座り心地を追求して削っては座りを繰り返し、気の遠くなるほどの試行錯誤を重ねて完成したとのことでした。
本当に感動しました。そして勇気をもらいました。我々もこれを目指すんだ。木の板に座っているのに気持ちいいと感じる、究極の座り心地。そして自分たちの感覚を信じ、どこまでも理想を追求する姿勢。そういう気持ちを、開発スタッフ一人ひとりがあらためて胸に刻むことができました。マルニ木工さんとの出会いは、今回の開発にとってすごく有意義なものとなりましたね。
工房では、熟練の職人さんが繊細な手仕事で木を削っていました。わずか0.0数ミリ以下の世界です。その姿は、マツダのデザインスタジオのクレイモデラーとも重なりました。話を聞くと、HIROSHIMAという椅子は、世界に通用する製品を造りたいと、著名なプロダクトデザイナーの深澤直人さんと組んで開発したものでした。理想の座り心地を追求して削っては座りを繰り返し、気の遠くなるほどの試行錯誤を重ねて完成したとのことでした。
本当に感動しました。そして勇気をもらいました。我々もこれを目指すんだ。木の板に座っているのに気持ちいいと感じる、究極の座り心地。そして自分たちの感覚を信じ、どこまでも理想を追求する姿勢。そういう気持ちを、開発スタッフ一人ひとりがあらためて胸に刻むことができました。マルニ木工さんとの出会いは、今回の開発にとってすごく有意義なものとなりましたね。
データではなく、感覚を信じる。
この新技術は、型破りなクルマづくりから生まれました。
これまでのクルマづくりだったら、ボディはボディ、サスペンションならサスペンション、シートならシートと、それぞれの領域で最適化を図るという流れが普通です。でもSKY-VAは、それぞれを経由して最終的に人が感じる部分を最適化しなければならない。だから、各部門の意識の統一が非常に重要になります。個別のデータにとらわれるのはやめよう。とにかく乗って感じよう。そういう方針で開発を進めました。
まずは、目指すべき乗り心地を明確にするため、現場のスタッフから役員まで全員にテストコースを走ってもらい、あるひとつのコーナーでの挙動だけに絞って議論するようにルールを定めました。そうすると話がすごく噛み合うんです。みんなが体感した同じ場面を思い返しながら、感覚をすり合わせていく。それを各部門に持ち帰り、微妙に調整してまた集まる。そういうことを何度も繰り返しました。
これまでのクルマづくりだったら、ボディはボディ、サスペンションならサスペンション、シートならシートと、それぞれの領域で最適化を図るという流れが普通です。でもSKY-VAは、それぞれを経由して最終的に人が感じる部分を最適化しなければならない。だから、各部門の意識の統一が非常に重要になります。個別のデータにとらわれるのはやめよう。とにかく乗って感じよう。そういう方針で開発を進めました。
まずは、目指すべき乗り心地を明確にするため、現場のスタッフから役員まで全員にテストコースを走ってもらい、あるひとつのコーナーでの挙動だけに絞って議論するようにルールを定めました。そうすると話がすごく噛み合うんです。みんなが体感した同じ場面を思い返しながら、感覚をすり合わせていく。それを各部門に持ち帰り、微妙に調整してまた集まる。そういうことを何度も繰り返しました。
本来だったらデータを積み上げて最適値に近づけていくのですが、今回の共通言語は感覚のみです。通常ならありえない開発アプローチによって、SKY-VAをカタチにしたのです。もちろんその後は、数値化して部品特性に落とし込み、最終的に商品にしていきました。
自分で言うのも何ですが、そこそこ規模のある会社組織で、しかもクルマという工業製品で、それを感覚でつくるなんてことができたのは奇跡に近いんじゃないかと思います。そんな発想が許されて、認めてくれる上司がいて、やってやろうという雰囲気と、実際にやれる体制がある。そういうところは、マツダならではの強みだと思います。
本来だったらデータを積み上げて最適値に近づけていくのですが、今回の共通言語は感覚のみです。通常ならありえない開発アプローチによって、SKY-VAをカタチにしたのです。もちろんその後は、数値化して部品特性に落とし込み、最終的に商品にしていきました。
自分で言うのも何ですが、そこそこ規模のある会社組織で、しかもクルマという工業製品で、それを感覚でつくるなんてことができたのは奇跡に近いんじゃないかと思います。そんな発想が許されて、認めてくれる上司がいて、やってやろうという雰囲気と、実際にやれる体制がある。そういうところは、マツダならではの強みだと思います。
思い描いていた世界の入り口に立っただけ。
もっと気持ちのいい走りをお届けしていきます。
完成したSKY-VAを、プレス向けにお披露目する技術発表会が開催されました。すると、学術的なことに詳しい理論派で知られるジャーナリストの方が、試乗から戻るやいなや、「虫谷さん、悔しい。理屈がわからない。これどうなってるの?」と聞いてきたのです。私にとっては、最高のほめ言葉でした(笑)。
今回のSKY-VAは、自分としてはそんなに特別なことだとは思っていません。昔からやりたかったことが、やっと実現できた。ようやく自分が思い描く世界の入り口に、みんなを連れてくることができた。考えていることは、この先もまだまだあります。 例えばですが、骨盤を立てて座ると当然ながら姿勢がよくなります。姿勢がよくなると、胸が開き、たくさん空気が吸えるようになります。そうすると血流がよくなる。頭がリフレッシュする。体にはいいことづくめなんです。クルマに乗ると体調がよくなると感じる人がいても、不思議ではないのです。将来的には、“体調管理”や“健康促進”といったことも、クルマのテーマになってくるかもしれません。
完成したSKY-VAを、プレス向けにお披露目する技術発表会が開催されました。すると、学術的なことに詳しい理論派で知られるジャーナリストの方が、試乗から戻るやいなや、「虫谷さん、悔しい。理屈がわからない。これどうなってるの?」と聞いてきたのです。私にとっては、最高のほめ言葉でした(笑)。
今回のSKY-VAは、自分としてはそんなに特別なことだとは思っていません。昔からやりたかったことが、やっと実現できた。ようやく自分が思い描く世界の入り口に、みんなを連れてくることができた。考えていることは、この先もまだまだあります。 例えばですが、骨盤を立てて座ると当然ながら姿勢がよくなります。姿勢がよくなると、胸が開き、たくさん空気が吸えるようになります。そうすると血流がよくなる。頭がリフレッシュする。体にはいいことづくめなんです。クルマに乗ると体調がよくなると感じる人がいても、不思議ではないのです。将来的には、“体調管理”や“健康促進”といったことも、クルマのテーマになってくるかもしれません。
SKY-VAはクルマとの一体感をもうひとつ上のレベルに引き上げます。これは、クルマに乗るすべての人が実感できると思います。お客様には、この誰もが驚く一体感をぜひ味わってほしいと思います。また、自分のコントロール下にすべてがあるという感覚が無意識に起こると、視覚情報が非常にクリアになってきます。「ボールが止まって見える」というアスリートの“ゾーンに入る”状態と同じですね。そうすると、ドライブしながら眺める景色などが、いつもよりもはっきりときれいに見えてくるのです。これは気持ちいいですよ。SKY-VAはすでにそういうレベルに達していると、個人的には思っています。
今後は、この感覚をさらに鮮明にしていきたいですね。「きれいな桜並木だね」だったのが、「あの花びらきれいだね」なんて言えるぐらいに。素敵だと思いませんか。歩いているぐらいに自然に感じられるクルマとの一体感を、ぜひ多くの人に楽しんでもらいたいと思います。
SKY-VAはクルマとの一体感をもうひとつ上のレベルに引き上げます。これは、クルマに乗るすべての人が実感できると思います。お客様には、この誰もが驚く一体感をぜひ味わってほしいと思います。また、自分のコントロール下にすべてがあるという感覚が無意識に起こると、視覚情報が非常にクリアになってきます。「ボールが止まって見える」というアスリートの“ゾーンに入る”状態と同じですね。そうすると、ドライブしながら眺める景色などが、いつもよりもはっきりときれいに見えてくるのです。これは気持ちいいですよ。SKY-VAはすでにそういうレベルに達していると、個人的には思っています。
今後は、この感覚をさらに鮮明にしていきたいですね。「きれいな桜並木だね」だったのが、「あの花びらきれいだね」なんて言えるぐらいに。素敵だと思いませんか。歩いているぐらいに自然に感じられるクルマとの一体感を、ぜひ多くの人に楽しんでもらいたいと思います。
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