ロードスター990Sを走らせ、訪れたいところがある。
それは、自分らしく生きる歓びにあふれた場所。
山梨県の富士五湖から日本屈指のワインディングロードを経て、静岡県の南伊豆へ。
ロードスターの走る歓びとも重なり合う人生の歓びを、その走行性を満喫しながら辿っていく。

コーナリングに魅了される、伊豆スカイラインを縦走

まだ深い夜に包まれた東京都内を出発し、1時間半ほどで富士五湖の一つ、精進湖に到着した。湖畔までスロープを伝って走り降り、エンジンとライトを切る。日の出前の湖畔は、すっと暗がりと静寂に包み込まれた。シートに身を預け、夜明けを待つこのひとときも、とても心地よい。

コーナリングに魅了される、伊豆スカイラインを縦走

やがて周囲の森から鳥や虫の鳴き声が届き始めると、今回のドライブの幕開けを告げるかのように、少しずつ空が白み始めてきた。まるで湖を抱くように、富士山の雄姿が神々しく浮かび上がってくる。

息を飲むとは、まさにこのことを言うのだろう。刻々と変わりゆく光景を、風の感触を、穏やかな波の音を、990Sとともに満喫した。

すっかり明るくなった空のもと精進湖畔を出発した。向かうのは、日本のワインディングロードの代表格といえる伊豆スカイラインだ。

高まる期待を抑えながらステアリングを握り、富士吉田、御殿場を過ぎていくと、やがて熱海峠に伊豆スカイラインの入口が現れる。東伊豆の稜線に沿って走るこのワインディングロードは、熱海峠と天城高原間の延長距離約40kmをつなぐ。

すっかり明るくなった空のもと精進湖畔を出発した。向かうのは、日本のワインディングロードの代表格といえる伊豆スカイラインだ。

高まる期待を抑えながらステアリングを握り、富士吉田、御殿場を過ぎていくと、やがて熱海峠に伊豆スカイラインの入口が現れる。東伊豆の稜線に沿って走るこのワインディングロードは、熱海峠と天城高原間の延長距離約40kmをつなぐ。

   

何と言っても、空が近い。東側には相模湾の真っ青な海が時折視界に飛び込み、西側の眼下には西伊豆の田園や森林がなだらかに続く。途中立ち寄った三島中継局下駐車場からは、遠く西伊豆の駿河湾まで見晴らせた。

2速と3速をスムーズに交互させながら、連続するカーブを身軽に駆け抜けていく。軽量化にこだわった990Sは、ハンドル操作がダイレクトにシャシーにつたわり、するりするりという感触でカーブを巧みにとらえる。

何と言っても、空が近い。東側には相模湾の真っ青な海が時折視界に飛び込み、西側の眼下には西伊豆の田園や森林がなだらかに続く。途中立ち寄った三島中継局下駐車場からは、遠く西伊豆の駿河湾まで見晴らせた。

2速と3速をスムーズに交互させながら、連続するカーブを身軽に駆け抜けていく。軽量化にこだわった990Sは、ハンドル操作がダイレクトにシャシーにつたわり、するりするりという感触でカーブを巧みにとらえる。

   

森とアートに包まれたブックカフェ

森とアートに包まれたブックカフェ

   

冷川インターチェンジで伊豆スカイラインから離れ、伊豆高原方面へ。一つ目の歓びの場所は、別荘地に佇むブックカフェ「壺中天(こちゅうてん)の本と珈琲」。ナラやクヌギが枝を伸ばす森に抱かれるように、斬新なデザインの一軒家が姿を現した。

冷川インターチェンジで伊豆スカイラインから離れ、伊豆高原方面へ。一つ目の歓びの場所は、別荘地に佇むブックカフェ「壺中天(こちゅうてん)の本と珈琲」。ナラやクヌギが枝を伸ばす森に抱かれるように、斬新なデザインの一軒家が姿を現した。

   

蝶ネクタイにデニムを合わせた装いで出迎えてくれたのは、オーナーの舘野 茂樹さんだ。

洋書を中心としたアート本や写真集などが書棚に並び、店内の白い内壁は森に寄り添うように緩やかなアーチを描く。天井には無垢材があしらわれていて開放的。聞けば、木をできるだけ有効活用できるように設計され、建築のために伐採した木はわずか3本という。また、店内のどの窓からも森を眺められるように設計されているそうだ。

蝶ネクタイにデニムを合わせた装いで出迎えてくれたのは、オーナーの舘野 茂樹さんだ。

洋書を中心としたアート本や写真集などが書棚に並び、店内の白い内壁は森に寄り添うように緩やかなアーチを描く。天井には無垢材があしらわれていて開放的。聞けば、木をできるだけ有効活用できるように設計され、建築のために伐採した木はわずか3本という。また、店内のどの窓からも森を眺められるように設計されているそうだ。

   

「この森を訪れたその日に、ここに自宅兼カフェをつくろうと決めたんです」

そう話す舘野さんは、テレビ局に長年勤務し、報道番組のディレクターとして手腕をふるっていた。一方、若い頃から仕事以外で没頭してきたのは、アートと本と音楽。コツコツと集めた蔵書は3000冊以上にのぼり、「ブックカフェをつくって、訪れる人たちに自分のコレクションを楽しんでもらおう」と一念発起。テレビ局を定年退職後、65歳で伊豆高原への移住に踏み切ったという。

「まるでなじみのなかった場所ですよ。でも、おもしろいものですね。カフェを媒介にして、伊豆にゆかりのある若手のアーティストやクリエイターとのつながりがどんどん広がっています。私が発行人となって、ライターやフォトグラファーと一緒に季刊誌『is(イズ)』を発行していますし、カフェでは毎月、アーティストと組み、アートと本をコラボレーションさせた企画展を開催しています」

 

ディレクター時代は、混沌とした社会に向きあい、張り詰めた毎日だったことだろう。今の舘野さんはアートと本を生きがいに、週3日カフェをオープンし、残りの休日は読書に没頭するという。BGMは、「過度な演出がなく、穏やかな気持ちになる」バッハだ。

 

「壺中天」とは、中国の『後漢書』の故事に出てくる言葉で、「俗世間から離れた別天地」を意味する。その名にふさわしく、特別な時間がゆったりと流れているかのような心地よさに包まれたのも、舘野さんの思惑通りなのかもしれない。

 

「この森とこの空間、そしてアートと本、音楽。好きなことに囲まれ、この上ない幸せですね」と話す舘野さん。その充実した表情が、いつまでも心に残り続けた。

東京から移住した夫婦ふたりのピッツェリア

東京から移住した夫婦ふたりのピッツェリア

伊豆高原を出発し、国道135号で東伊豆の海岸線を伝い、下田方面へ南下する。太平洋に浮かぶ伊豆諸島まで見晴らしながら、ギアをあげ、クルマを走らせる。

竜宮伝説が残る今井浜海岸、早咲きの桜で知られる河津を過ぎると、道は大きくU字を描きながら勾配を高めていく。すると、海食によって削り出されたダイナミックな海岸線を見下ろすように視界が開けた。伊豆では海岸沿いの道も風景も変化にあふれ、飽きさせない。

やがて下田の市街を抜け、入田浜に辿り着いた。下田の中でも透明度の高いビーチとして知られ、白砂と青い海とのコントラストが鮮やかに目に飛び込む。向かったのは、ビーチの目の前で営むピッツェリア「FermenCo.(フェルメンコ)」だ。

   

DJとして国内外で活動していた佐々木健人さんと、エステティシャンだった沙織さん夫妻。ふたりが東京から移住し、2021年7月に同店をオープンした。

自家製の自然酵母・サワードウを使い、生地をじっくり30時間かけて熟成発酵するという。そして、シラスや野菜、蜂蜜、卵など、下田産の食材を生地にのせ、薪で熱した釜で一気に焼き上げる。ピザは軽くてふっくら、生地の程よい甘さと酸味がふわりと口中に広がる。

DJとして国内外で活動していた佐々木健人さんと、エステティシャンだった沙織さん夫妻。ふたりが東京から移住し、2021年7月に同店をオープンした。

自家製の自然酵母・サワードウを使い、生地をじっくり30時間かけて熟成発酵するという。そして、シラスや野菜、蜂蜜、卵など、下田産の食材を生地にのせ、薪で熱した釜で一気に焼き上げる。ピザは軽くてふっくら、生地の程よい甘さと酸味がふわりと口中に広がる。

2020年、コロナ禍によって健人さんのDJの仕事は軒並みストップし、沙織さんもエステティシャンの仕事ができなくなってしまったという。そんなふたりに、北海道の富良野でトマト農園を営む沙織さんのお兄さんが声をかけてくれた。「農園の仕事を手伝わないか」と。

「慣れない畑仕事は正直大変でしたが、そこで思ったのは、“踏み出してみたら何だってできるんだ”ということです。自分たちでおいしいトマトをつくってみて、これを使ってピザをつくりたいという気持ちがますます強くなったんです」と、健人さんは思い返す。

もともと東京の自宅の庭に薪釜を設置し、自身で焼くほどピザ好きだった健人さん。トマト農園での経験を機に、「自分の店を持ちたい」という思いが一気に高まり、2020年12月、東京のシェアキッチンで「FermenCo.」をオープンさせた。

そしてその5カ月後には、共通の友人を介して現店舗の大家(店舗貸主)から「下田で店を出さないか」と声がかかった。ふたりはポータブルのピザ釜を持って下田を訪れたという。

もともと東京の自宅の庭に薪釜を設置し、自身で焼くほどピザ好きだった健人さん。トマト農園での経験を機に、「自分の店を持ちたい」という思いが一気に高まり、2020年12月、東京のシェアキッチンで「FermenCo.」をオープンさせた。

そしてその5カ月後には、共通の友人を介して現店舗の大家(店舗貸主)から「下田で店を出さないか」と声がかかった。ふたりはポータブルのピザ釜を持って下田を訪れたという。

   

「目の前の海を見て、一目惚れでした。大家さんも私たちがその場でつくったピザを気に入ってくれて、とんとん拍子に出店の話が進んでいったんです」と、沙織さんは当時を振り返るが、当時の沙織さんは妊娠中だったという。

「もちろん不安はありました。でも、それ以上に“やるしかない!”という前向きな気持ちが強かったですね。下田の美しい海が私たちを呼んでいる気がしたんです(笑)」

沙織さんの言葉に、健人さんも優しくうなずく。

「外から移住してきたふたりですが、だからこそ発見できる下田の魅力があると思っています。地元産のおいしい食材も、まだまだいくらでも見つけられるはず。地元の生産者の方々とのつながりを広げ、下田ならではのピザをつくり、私たちを快く受け入れてくれた下田の人たちに恩返ししたいですね」

「目の前の海を見て、一目惚れでした。大家さんも私たちがその場でつくったピザを気に入ってくれて、とんとん拍子に出店の話が進んでいったんです」と、沙織さんは当時を振り返るが、当時の沙織さんは妊娠中だったという。

「もちろん不安はありました。でも、それ以上に“やるしかない!”という前向きな気持ちが強かったですね。下田の美しい海が私たちを呼んでいる気がしたんです(笑)」

沙織さんの言葉に、健人さんも優しくうなずく。

「外から移住してきたふたりですが、だからこそ発見できる下田の魅力があると思っています。地元産のおいしい食材も、まだまだいくらでも見つけられるはず。地元の生産者の方々とのつながりを広げ、下田ならではのピザをつくり、私たちを快く受け入れてくれた下田の人たちに恩返ししたいですね」

――伊豆高原に移り住み、好きなことに囲まれて暮らすブックカフェオーナーの優しさ。新たな一歩を踏み出し、海辺での暮らしを満喫する家族3人の幸せ。共通していたのは、自ら動き、人生を切り開いた先にこそ、自分らしい歓びが待っているということだった。

それは、自分の意思が直に伝わるロードスターとも重なり合う。起伏に富んだ伊豆を縦走し、人生を謳歌する人たちと出会えたことで、自分らしく走る歓びと、自分らしく生きる歓びが呼応する感覚が、余韻として心地よく残った。

  • 取材先での撮影においては許可を得て行っております。また、感染症対策を行った上で実施いたしました。
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