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『走る歓び』『人馬一体』との出会い
講演レポート:『走る歓び』のつくり方 ~ 一体感のその先へ


2024年12月、マツダミュージアムにて、ロードスター35周年特別イベントとして「『走る歓び』の作り方~一体感のその先へ~」と題したトークショーを行いました。
初代ロードスターから始まりすべてのマツダ車に貫いている『走る歓び』と『人馬一体』。それらをつくり出している舞台裏から「クルマと“ひと”の研究」の一場面やこだわりをエンジニアの井上政雄よりお話しました。

今回は、クルマの中でも特に奥深いとされる「走り」の話題を、あえてクルマの専門家ではないライターに、講演の感想も含めてレポートしていただきました。

「走る歓び」?「人馬一体」?

クルマ好きの友人に誘われて向かったのは、マツダミュージアム。ロードスター35周年記念講演「『走る歓び』の作り方」でした。
クルマに疎い私が「走る歓び」という言葉を耳にしたのは、今回の講演の案内を見たときが初めてでした。正直に言えば、その意味がよく分かりませんでした。サーキットを走るようなスポーツカーやレースの話なのかなと思いました。
でも、日常で運転している私たちにとって「走る歓び」って具体的には何なんだろう?そう思いながらマツダミュージアムに足を運びました。

講演のもう一つのテーマは「人馬一体」。これもまた漠然としたイメージしかありません。武家社会で行われていた馬上から矢を射る流鏑馬(やぶさめ)みたいなもの?それがどうマツダのクルマと関わってくるんだろう?と疑問符で頭の中はいっぱいになりました。

でも、講演が進むにつれてその言葉の本当の意味が少しずつ分かってきました。「走る歓び」とは、特別なことではなく、むしろ日常の中でふと感じられる小さな感覚。そして「人馬一体」とは、それを実現するためのクルマと人との一体感。それらを追求し続けてきたマツダの取り組みに触れることで、私の中で少しずつ興味が芽生え、次第に感銘を受けていく自分がいました。

登壇者プロフィール

井上 政雄(いのうえ まさお)
パワートレイン開発本部 走行・環境性能開発部
1985年入社以来、エンジンおよびトランスミッションの開発部門で、「走り感」(加速の感覚)の開発や、それを操作し感じる「ひとの研究」にあたる。

1. マツダが追い求める「走る歓び」と「人馬一体」

起源はロードスターから始まった

講演の最初に語られたのは、マツダの代表的なクルマ、ロードスターの話。1989年に初代ロードスターが登場したとき、「人馬一体」という言葉がクルマづくりの指針として掲げられました。その言葉には、ただクルマを動かす道具としてではなく、クルマとドライバーが一つの存在になるという意味が込められています。

当時開発に携わったエンジニアたちは、この「人馬一体」という感覚を実現するために、具体的なキーワードを掲げてクルマづくりに挑みました。それは、「一体感」「ダイレクト感」「タイト感」「走り感」という言葉。これを聞いたとき、私は「走る歓び」というのが単なる抽象的な概念ではなく、綿密に設計されたクルマづくりの哲学であることを初めて知りました。

スポーツカーだけじゃない「走る歓び」

次に話題になったのは、「走る歓び」がマツダのスポーツカーだけに特有なものではない、という点でした。私はこれを聞いて少し驚きました。「走る歓び」という言葉だけを聞けば、スピード感や力強さを感じるものだと勝手に思い込んでいたからです 。
講演ではこんな例が挙げられました。朝の通勤時にスムーズに車線変更ができた瞬間や、狭い駐車場でぴったりとクルマを停められたときの「うまく出来た!」といううれしさ。それもまた「走る歓び」だというのです。「なるほど、そんな小さな瞬間にも愉しさがあるんだ」と思わず納得してしまいました。

科学が解き明かす「うまい運転」

さらに話は、マツダの技術開発の裏側へと進みます。「うまい運転」とは何か。それを解き明かすために、マツダのエンジニアたちはさまざまな研究を重ねてきたそうです。
印象的だったのは、タクシー運転手の運転を分析したエピソードです。講演者の井上さんがドイツのフランクフルトで偶然乗ったタクシーで出会った見事なほどに心地よい運転と、広島で乗って車酔いしてしまったタクシーの運転をスマホのアプリで計測した加速度のデータで比較すると、加速度の大きさや、加速度の変化の仕方の違いが明確に表れていました。運転の上手い下手があるのは分かっていましたが、それがここまでデータに反映されることは驚きでした。

運転の心地よさが加速度のスムーズさと、加速度によって乗員の身体に掛かる力の具合、そして身体を支える筋肉の動きに大きく影響を与えるという話を聞き、運転の楽しさが実はこんなにも科学的に追求されているのだと感心しました。
例えば、クルマを発進させようとアクセルを踏むと、ふくらはぎの筋肉が動き、その動きに合わせて腹筋や首の筋肉が身体を支えようと自然と連動して動く感覚があるそうです。これを聞いたとき、「ああ、自分もそんな風に身体が反応していることがあるのかもしれない」と考えて、今日の帰りは少しそんな身体の反応を意識してみようかと思いました。

2. 「人馬一体」を可能にする技術とデザイン

馬術に学ぶ「人馬一体」

講演の後半では、「人馬一体」をさらに深掘りした話が展開されました。その中で、馬術競技や馬の調教師の話からヒントを得たというエピソードがとても印象に残っています。馬と騎手が一緒に障害物を飛び越える瞬間やその調教の過程を見て、井上さんは「これも人馬一体だ!」と感じたそうです。

その話を聞きながら、私は馬術のことなどあまり詳しくないけれど、確かに馬と騎手の動きがぴったりと合わさった瞬間を想像すると、それはただの技術ではなく信頼関係の賜物だと気づきました。
馬が騎手の指示を受け取り、演技の動作を完璧にこなすためには、急かすのでも押さえつけるのでもなく、騎手が馬の動きを邪魔しないように動く。つまり 馬が動きやすいように騎手も全身を動かし、互いの動きを調和させている。
このイメージをクルマに当てはめ、「クルマを操るドライバーがクルマの特性や“クルマの今の状態”をよく把握して、クルマに無理をさせずに気持ち良く走っていることと同じ」として捉える発想が新鮮でした。

「人馬一体」の実現には、クルマがドライバーに対してただ従うだけでなく、ドライバーを助け、支える仕組みが欠かせない。馬術に学ぶこの視点は、単なるクルマづくりの技術を超えて、人とクルマの新しい関係を提案しているように感じました。

運転を愉しくする秘密

次に、実際に「人馬一体」を実現するための具体的な技術開発について話が移りました。驚いたのは、たった一つの部品、例えばアクセルペダルを変えただけで、クルマ全体の操作のリズムや印象が変わるという話です。
ペダルの重みを調整することでアクセルの操作がスムーズになり、その結果「運転操作とクルマの動きが滑らかに同調するリズム感」が生まれたそうです。メディアを対象にした試乗会では、「ブレーキやサスペンションまで変えたのでは?」と勘違いされるほどの変化だったとか。
私はこれを聞いて、「人馬一体」という感覚が決して特別な装置や派手な技術ではなく、むしろ細部の工夫と、それをクルマ全体に調和させることによって成り立っていることに驚かされました。小さな工夫がドライバーの体感にこれほど大きく影響を与えるなんて、クルマづくりの奥深さを初めて実感しました。

一体感のその先へ:道との同調

「一体感」の話は、さらにその先へ進みました。それは、ドライバーとクルマが調和するだけでなく、「道」とも同調する感覚を目指しているという話です。
その一例として、カーブを走るとき、目線を次のターンに移すと、それに合わせて身体が自然に動き、クルマがカーブの曲線に沿って滑らかに向きを変える。
この感覚を井上さんは「コーナーに吸い込まれるような感覚」と表現し、それを実現するためにクルマ 全体の設計を見直し、ドライバーが身体全体で「道」との調和を感じられるクルマづくりを進めたそうです。

この中で特に興味深かったのは、シート開発へのこだわりです。井上さんはパワートレインのエンジニアですが、シートの開発の部門と共に「身体をしっかり支えながら動きやすいシート」を設計することで、ドライバーが「道」と同調するような動きで操作でき、その操作の結果としてのクルマの動きも直感的に感じられるようにしていったというエピソードでした。
シート開発の専門家ではない井上さんが、追い求める走りの実現のために、専門性や部門という壁を超えて一緒に造りあげる活動をするところがマツダらしさなのだなと感心しました。 シートなんてただ座るだけのものだと思っていましたが、それが運転の愉しさに直結するのかと私は少し驚きました。こうした「人とクルマの関係」の細部へのこだわりが、「走る歓び」という抽象的な概念をお客様が体験し、実感できる愉しさ・面白さに変えるカギなのだと分かりました。

この話を聞きながら私は、普段の運転で意識していなかった「道との関係」を改めて考えさせられました。クルマがただ進むのではなく、道の流れに溶け込むように感じられる。それは運転という行為そのものを特別なものに変えてくれるのではないでしょうか。

3. 運転を『楽しむ』クルマから『愉しむ』クルマへ

講演の中で井上さんは、『楽しい』と『愉しい』の漢字を使い分けていると言われました。つまり、音楽を聴いたりスポーツを観戦したり「与えられてたのしむ」の時は「楽しむ」を、自分で楽器を演奏したりスポーツをやる「自分が能動的に創り出してたのしむ」の時は「愉しむ」を使っているのだそうです。「速さ」や「パワー」というクルマの性能を楽しむだけではなく、運転の愉しみ方をクルマに乗る人自身が見つけ、工夫して創り出すという「面白さ」に焦点を当てたクルマづくり。その哲学が、多くの人の日常を少しだけ楽しくし、時には新しい発見をもたらしてくれるのかもしれない。普段の何気ない運転が少しだけ特別なものに思えるような気がしました。

4. 講演に参加された方の同乗体験のご感想

当日のトークショーにご参加いただき、さらに講演後に行った「開発エンジニアの運転 同乗体験」にご参加いただいた方の感想をご紹介します。

「今日の講演のようなお話を聞く機会はこれまでなく、夫についてきて何気なく聞いていたのですが、聞いているうちにとても面白く感じました。
私は毎日車に乗るので、運転するときにどの筋肉を使っているのかについても何となく意識していましたが、今日の話を聞いて『やっぱりそうだったんだ!』と納得し、まるで答え合わせをしているような気分になりました。普段何となく感じながら運転していたことが、科学的に説明されることで納得できた気がします。
車との一体感についてはあまりイメージしたことがなかったのですが、自転車に乗るときには自然とそう感じていたことを思い出し、もしかするとその延長なのかもしれないと思いました。
車の運転も腰を起点に動かすことやシートの重要性についても新たな発見があり、これまでスポーツカーによくある硬いシートが苦手だったのは、肩の動きが制限されて自由に動けないことが理由だったことも分かりました。」

「同乗体験での発見は、『ブレーキ』でした。いつも自分なりに考えながら運転していましたが、同乗させてもらった開発エンジニアの方のブレーキは、スーッと停まれるのがすごく気持ち良かったんです。これができるようになることが自分にとっての課題だと改めて感じています。人を乗せることもあるため、カックンブレーキにならずに停まったり、カーブで頭を揺らさないように曲がれたりすることが理想的ですが、なかなか難しいです。
マツダ車はこうしたブレーキやアクセルの操作によって、自分のイメージ通りに加速・減速できるように作られているのだろうと感じました。そこに生涯をかけて取り組んでいる井上さんのお話にぐっときました。」

いかがでしたでしょうか。

今回は、エンジニアの井上政雄に『走る歓び』とは何か、『人馬一体』とはどんな感覚なのかをご自身で探究されてクルマづくりに活かされた体験を中心とした講演をご紹介しました。
『走る歓び』や『人馬一体』が難しいことではなく、普段の通勤や買い物の運転で「うまく出来た!」ということや、人とクルマが調和して一体感を作り出し、そして道とも同調していく面白さを感じていただくことなんだということがお分かりいただけたと思います。

皆様も日々の運転で自分の身体が何を感じていて、どうすれば心地よいのか、気持ちいいのかを、ご自身の身体と心に問いかけながら、このマツダらしい運転の面白さを愉しんでみてはいかがでしょうか?