チーフデザイナーが掲げるビジョンを具現化し、形にするために最大限のサポートを行う。
それが我々のやり方です。
クルマのエクステリアパネルに従事する鋳型の匠たちを率いる安楽健次(あんらく けんじ)はこう語る。「皆でよく議論をし、時にはデザイナーと意見がぶつかることもありますが、あくまでもデザインをより高いレベルに引き上げるため、と全員が理解しています。誤差の範囲といわれるごく些細な食い違いでも、ここでは許されません」
防府工場の技術スタッフマネージャーを務める松井利孝(まつい としたか)も同様の見解を示した。「コンセプトモデルは製造上の制約や生産を前提とした条件などに縛られず、自由な状況でデザインできるので、コンセプトを量産車に落とし込むことは非常に困難です。でもマツダはそこに挑戦しています。」
クルマのエクステリアパネルに従事する鋳型の匠たちを率いる安楽健次(あんらく けんじ)はこう語る。「皆でよく議論をし、時にはデザイナーと意見がぶつかることもありますが、あくまでもデザインをより高いレベルに引き上げるため、と全員が理解しています。誤差の範囲といわれるごく些細な食い違いでも、ここでは許されません」
防府工場の技術スタッフマネージャーを務める松井利孝(まつい としたか)も同様の見解を示した。「コンセプトモデルは製造上の制約や生産を前提とした条件などに縛られず、自由な状況でデザインできるので、コンセプトを量産車に落とし込むことは非常に困難です。でもマツダはそこに挑戦しています。」
マツダの技術革新、そして究極の美の追求から生まれたMAZDA3。美という点で特筆すべきは、典型的なキャラクターラインが排除されたサイドパネル。このように他とは違うやり方を追求する姿勢から、クルマづくりにかけるマツダの並々ならぬ情熱を感じることができる。「シンプルでありながらも力強く、美しいフォルムをつくることが魂動デザインにとっての次なるステップだと考えています」と土田は語る。
もっとエネルギーが感じられるフォルムをつくり上げようとするあまり、
様々なデザイン要素を足し合わせてきました。
クレイモデルをもとにデジタルデータを作成するため、デザインチームは3Dでスキャンを行い、サイドパネルのプロトタイプを製作した。出来上がったプロトタイプを見た土田は愕然とした。オリジナルのクレイモデルに備わっていた美的要素が全て、失われていたからだ。
「滑らかな表面のプロトタイプには、クレイモデラーが造形をつくりながら注ぎ込んだ魂がまったく感じられませんでした」と土田は回想する。まさに「言うは易く行うは難し」だ。
原因究明のための調査を通じて、クレイモデルをコンピューターがスキャンする際に、人の手によって生じた表面の凹凸が齟齬として解釈され、表面をより均一的に滑らかにする補正が加わっていたことが判明した。補正されてしまった齟齬こそがクルマに命や魂を吹き込み、エネルギーを与えるというのが土田の考えだ。
プロトタイプとクレイモデル、この2 つを徹底的に見比べ、
クレイモデルで実現できていた匠の表現をデジタルデータ化することに成功
「人の手でつくっているからこそ、クレイモデルには不均一な表面や『味』ができます。これはクレイモデラーの意図でもありますが、コンピューターには理解不能な領域です。プロトタイプ製作後にクレイモデルに戻り、手仕事との違いを確認しました。」
非効率なプロセスだったかもしれないが、土田と彼のチームは、決して手を抜かなかった。1年半以上をかけて、彼らはMAZDA3が具現化する理想のフォルムをやっとつくりあげた。当時の苦労を思い出した土田はにっこりと笑い「我々がやっていることは結構泥臭いでしょう?でもそんなもんですよ」と語った。
パネルに映り込む美しい光の移ろいは、禅の世界の静寂を表現しているかのようだ。
土田、安楽、松井をはじめとした多くの人々による弛まぬ努力こそが、マツダのクルマが「真のクラフトマンシップの結晶」と呼ばれる所以だ。MAZDA3 のサイドパネルに波打つ輪郭は、研ぎ澄まされた筋肉に蓄積されたパワーが解放されるのを待っているかのような印象を与える。
土田は「クルマに映り込む光の移ろいは、走る場所や時間、季節などの外的要因に応じて変化します。ドライバーはその変化を楽しみ、それによってクルマとの絆がより深く、強固になるのだと思います」と語る。匠の手によって大切につくり上げられたクルマには、流行や時代を超えて永続的な愛情が注がれるのだ。