ドイツの筆記具メーカー「ラミー」は、
手作業で作られる万年筆『ラミー ダイアログ ウルシ』により、
革新的な機能性と時代を超越したフォルム、そして日本の職人技を融合させた。
これを機会に、ドイツ・デザイン界のトップランナーであるラミーを訪ねた。

Text Alfred Rinaldi / Fotos Lamy

デザインによって自分自身を定義したブランド「ラミー」

エディングからシュワンスタビロ、モンブラン、ペリカン、ファーバーカステルまで、ドイツから世界的に有名な筆記具がどれだけ送り出されているかは注目に値する。日常のオフィスにおける実用的な道具として、高級なステータスを飾るシンボルとして、また、小学生から使える壊れない万年筆やアーティスト向けの専門的な筆記具などにも、そのすべてに魅力的な歴史がある。しかし、ラミーほどそのデザインによって自分自身を定義したブランドはないといえる。

経営者としてハイデルベルグのネッカー渓谷にあるこの会社をバウハウスと結び付けたのは、先日亡くなったマンフレッド・ラミーであった。新製品の考案、マーケティング、会社経営のみならず、製品の製造もここが本拠地となっている。生産時間の平均4分の3を丁寧な手作業に費やし、製造工程の95%を自社で行う。これらは、彼のモットー「デザイン。Made in Germany」に基づいているのだ。

経営者としてハイデルベルグのネッカー渓谷にあるこの会社をバウハウスと結び付けたのは、先日亡くなったマンフレッド・ラミーであった。新製品の考案、マーケティング、会社経営のみならず、製品の製造もここが本拠地となっている。生産時間の平均4分の3を丁寧な手作業に費やし、製造工程の95%を自社で行う。これらは、彼のモットー「デザイン。Made in Germany」に基づいているのだ。

ペンから思考ツールへ

ラミーのブランドおよび製品戦略の責任者であるマルコ・アッヘンバッハ氏を訪れた。近年、キーボードやタッチスクリーンによる入力が手書き文字に取って代わる一方で、ラミーは毎年右肩上がりの成長を記録している。この明らかなパラドックスについて、彼はどのように説明してくれるのだろうか。

「仕事場で心地良さを感じられる人だけが、クリエイティブになれる」
マルコ・アッヘンバッハ

「仕事場で心地良さを感じられる人だけが、クリエイティブになれる」
マルコ・アッヘンバッハ

   

「その理由は、筆記具を‘思考ツール’と考えているからです。今日もこれからも、この道具を使い、どうすれば思考を可視化できるか、という問いに私たちは取り組んでいます。つまり、手で書くということは、比類のない普遍性と即時性を持ち続けているのです。手頃な価格で機能に優れ魅力的な電子ペーパーがあるとしても、手書きは存在し続け、将来においてもまったく異なる状態を保つでしょう」。

「その理由は、筆記具を‘思考ツール’と考えているからです。今日もこれからも、この道具を使い、どうすれば思考を可視化できるか、という問いに私たちは取り組んでいます。つまり、手で書くということは、比類のない普遍性と即時性を持ち続けているのです。手頃な価格で機能に優れ魅力的な電子ペーパーがあるとしても、手書きは存在し続け、将来においてもまったく異なる状態を保つでしょう」。

   

「さらに、手で書くということは、脳内のまったく異なる領域のつながりを生み出します。単語、文章、そして言語全体を学ぶことができるのです。ペンを持つことで、速く、より直接的に表現できるため、論理的な思考を促すことにつながります。細かい作業能力の訓練にもなるでしょう。そして、手で書くという作業により、内容をより良く記憶できるということが証明されているのです」。

「さらに、手で書くということは、脳内のまったく異なる領域のつながりを生み出します。単語、文章、そして言語全体を学ぶことができるのです。ペンを持つことで、速く、より直接的に表現できるため、論理的な思考を促すことにつながります。細かい作業能力の訓練にもなるでしょう。そして、手で書くという作業により、内容をより良く記憶できるということが証明されているのです」。

伝統的・機能的なデザインを生み出すために

多くの大人たちにとって、手で書くということは日常的な行為なので、それが30の筋肉、17の関節、12の脳領域による複雑な作業であるということは思いもよらないだろう。だからこそ、子どもたちに、幼い頃から手で書く作業を楽しむことを教える価値がある。記号、図形、言葉、思考を思いのままに白い紙の上に解き放つことが楽しいということを。多くの場合、アイデアの片鱗は、一見取るに足らない殴り書きから生まれるものなのだ。

「私たちの目標は、100%の機能を満たす製品を開発し、かつ機能性と重要性が見え、人々が好む形にすることです。製品の機能に寄与しない装飾やこまごましたデザインは排除します。実際、機能的に必要とされる素材のみを使用し、見た目やステータスをあげるためだけの素材は選びません」とアッヘンバッハ氏は言う。

だからといって、ラミーは特別かつ高級な製品をあまり作っていないのではないかと考えるのは間違っている。『ラミー ダイアログ ウルシ』が、機能的なデザインも非常に官能的であることを証明している。

「私たちの目標は、100%の機能を満たす製品を開発し、かつ機能性と重要性が見え、人々が好む形にすることです。製品の機能に寄与しない装飾やこまごましたデザインは排除します。実際、機能的に必要とされる素材のみを使用し、見た目やステータスをあげるためだけの素材は選びません」とアッヘンバッハ氏は言う。

だからといって、ラミーは特別かつ高級な製品をあまり作っていないのではないかと考えるのは間違っている。『ラミー ダイアログ ウルシ』が、機能的なデザインも非常に官能的であることを証明している。

   

「ダイアログシリーズはキャップレスの万年筆であり、伝統的なモチーフをあえて避けながら、漆でコーティングした技術的に革新的な製品です」と、アッヘンバッハ氏。

「ダイアログシリーズはキャップレスの万年筆であり、伝統的なモチーフをあえて避けながら、漆でコーティングした技術的に革新的な製品です」と、アッヘンバッハ氏。

   

「何十年もの間、万年筆は漆塗りで仕上げられてきました。そのほとんどは伝統的なデザインです。私たちは、この職人技と当社の製品を新しい方法で組み合わせたかったのです。この挑戦のために、私たちはブレーメンにいる芸術家であり職人であるマンフレッド・シュミット氏に辿り着きました」。

「何十年もの間、万年筆は漆塗りで仕上げられてきました。そのほとんどは伝統的なデザインです。私たちは、この職人技と当社の製品を新しい方法で組み合わせたかったのです。この挑戦のために、私たちはブレーメンにいる芸術家であり職人であるマンフレッド・シュミット氏に辿り着きました」。

塗装が生み出す特別な色合い

「私の目標は、塗装と造形を完全に調和させることです」
マンフレッド・シュミット

「私の目標は、塗装と造形を完全に調和させることです」
マンフレッド・シュミット

塗装が生み出す特別な色合い

「漆は、この世で作り出すことのできる最も深い黒色です」と、シュミット氏は切り出す。「そしてまた、顔料で作られていない唯一の黒。漆は半透明であり、塗布するレイヤーが多ければ多いほど、光の屈折が多くなり、黒がより深く表現されます。日本人の方々が言うように、日本の漆は、実際には幾重にも層になった暗闇なのです」。

『ラミー ダイアログ ウルシ』は、四季をテーマにした万年筆のセット。漆の木の樹皮からほんの少ししか得られない漆を使った、特別な色合いを見ることができる。日本の巨匠・小椋範彦(おぐら のりひこ)が作った夏の色は力強い金色に輝き、秋、冬、春はそれぞれ琥珀色、黒、銀の輝きを放つ。数ヶ月にわたる、繊細な作業により、33セットの限定版が作り出された。時間の経過により、漆はより強固になり、同時に心地よい触り心地になっていく。

マツダもまた、特別な深みと輝きを生み出すために、塗装について強いこだわりを持っている。

たとえば、マシーングレーの色は、車両全体がひとつの鋼の塊から形成されているような印象を与える。その強靭さと金属の輝きは、半透明の塗料層の中に組み込まれた、光を吸収する粒子と光を反射する粒子による、洗練された技術によって実現されたものだ。その下の漆黒の層は、光と影の魅力的な遊びの中で独特なコントラストを生んでいる。絶えず変化する彩色は、見る者を飽きさせない。

プロダクトデザイナーの深澤直人氏が以前、『ラミー ノト ボールペン』をデザインして以来、ラミーと日本との間には特別な親和性があるのだろうか。

「日本の美的感覚に寄せようとする意図はありません。しかし、日本の多くの方々が私たちの製品を気に入ってくれているのは、シンプルで洗礼されたものを好む日本の文化のおかげです」とは、アッヘンバッハ氏。

ラミーの持続的な成長は、明快さにも基づいている。

「私たちの成長は、常に明確な製品哲学の実行と継続によるものです。この継続性が人々の信頼を生み出します。私たちは時代に無理にあわせようとはしません。それが、最終的に私たちのデザインを普遍的なものにしているのです」。

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