日本の織物の伝統には、情熱と献身が織り込まれている。
そして自然素材が、色とフォルムの発想の源。
長く続く織物の伝統に新たな風を吹き込む、現代の「匠」たちに出会った。
Words Louise George Kittaka
日本には長く、輝かしい織物芸術の歴史があり、地域ごとに独自の発展を遂げている。素材や技法の違いはあるが、日本の織物の伝統には過去を敬い、完璧を追求する姿勢が貫かれている。
織物は衣服や日々の生活用品に使われ、貴重な収入源でもあった。使われていたのは、人の身体と環境にやさしい自然素材。それぞれの地域で育つ自然素材の使用は、後に地域を象徴する特徴となった。例えば山形県では数百年もの間、紅花が織物文化に欠かせない素材として重宝された。換金作物として栽培された紅花は、花びらから抽出された緋色(ひいろ)の染料が重宝され、現在でも一部の職人によって使用されている。
織物は衣服や日々の生活用品に使われ、貴重な収入源でもあった。使われていたのは、人の身体と環境にやさしい自然素材。それぞれの地域で育つ自然素材の使用は、後に地域を象徴する特徴となった。例えば山形県では数百年もの間、紅花が織物文化に欠かせない素材として重宝された。換金作物として栽培された紅花は、花びらから抽出された緋色(ひいろ)の染料が重宝され、現在でも一部の職人によって使用されている。
Hi-COLOR handworksでは、明るく鮮やかな色を出すために、マリーゴールドの花を染料にして輝く黄色を作り出している。
(写真提供:Hi-COLOR handworks)
徳島県と言えば、800年ほど前から続く藍染が有名だ。水が豊かで肥沃な土に恵まれ、この風土が藍の栽培に適していた。
徳島県と言えば、800年ほど前から続く藍染が有名だ。水が豊かで肥沃な土に恵まれ、この風土が藍の栽培に適していた。
藍の葉を収穫すると、水と空気のみを使って発酵させる。
山形県の紅花同様、20世紀に入ってからは、織物製作における藍染需要は、安価な合成染料の台頭によって減退した。しかし近年の伝統的な技法への関心の高まりに加え、サステナビリティへの取組により、日本の天然織物染料が再び脚光を浴びている。新たな世代の「匠」たちは、伝統的な技法と現代の美的感覚を組み合わせ、ワクワクする作品を生み出している。
山形県の紅花同様、20世紀に入ってからは、織物製作における藍染需要は、安価な合成染料の台頭によって減退した。しかし近年の伝統的な技法への関心の高まりに加え、サステナビリティへの取組により、日本の天然織物染料が再び脚光を浴びている。新たな世代の「匠」たちは、伝統的な技法と現代の美的感覚を組み合わせ、ワクワクする作品を生み出している。
オーガニックな藍染の染料を使用して、フォーマルな靴にポップな色を加える。
過去と現在の融合という志
Hi-COLOR handworks 創業者 庄司 拓也
Hi-COLOR handworksの庄司 拓也 は、天然染料を新たな次元に押し上げる匠の1人。徳島県海部郡を拠点とする庄司は数名の仲間と共に、無農薬で育てた藍など、さまざまな天然染料を製作している。
「私たちが手掛ける染料の主な素材は藍、他にはマリーゴールドを染料とする黄色、アカネの根を使った赤、そして泥を染料とする茶色です」と庄司は教えてくれた。
「この4色を組み合わせて、ベースカラーを作ります。マリーゴールドイエローで染めた後、薄い色の藍を重ねると緑になるんですよ。」
Hi-COLOR handworksの庄司 拓也 は、天然染料を新たな次元に押し上げる匠の1人。徳島県海部郡を拠点とする庄司は数名の仲間と共に、無農薬で育てた藍など、さまざまな天然染料を製作している。
「私たちが手掛ける染料の主な素材は藍、他にはマリーゴールドを染料とする黄色、アカネの根を使った赤、そして泥を染料とする茶色です」と庄司は教えてくれた。
「この4色を組み合わせて、ベースカラーを作ります。マリーゴールドイエローで染めた後、薄い色の藍を重ねると緑になるんですよ。」
(写真提供:Hi-COLOR handworks)
アトピー性皮膚炎を患っていた息子の誕生が、着ることが楽しく、自然と融合した衣服の製作を手掛けるきっかけになった。染色工程には、生地を数回水で洗い流す作業があり、ここでも庄司は工房の近くに流れる川の地下水を使っている。
ファストファッションや一時的な満足感があふれる今の世の中に対して、庄司は、アイデアやプロセスの発酵を尊重する文化を提唱する。日本の伝統的な技法の多くは、結実するまでに長い年月を要したからだ。「例えば日本の発酵文化もそうですよね。伝統的な発酵食品である味噌や醤油の製造は、約半年かかります」と庄司は説明する。
「染料も同じなんですよ。藍を収穫して乾燥させた後、水と空気だけで藍の葉を3カ月発酵させます。発酵の過程では、何度も藍の葉をひっくり返して微生物の量を増やしています。」
庄司とその仲間である織物の職人たちが生み出す作品には、見事なクラフトマンシップと伝統への尊敬の念が染み込んでいる。作品は展示や「ハレ」の場を目的としておらず、日々の生活に役立つために作られている。庄司は「Hi-COLOR handworksでは、過去と現在の融合を目指しています。時間の経過とともに魅力が増すデザインを作りたいですね」と語った。
「伝統」は過去の遺物ではなく、現在も進化している
株式会社スズサン 代表取締役CEO 村瀬 弘行
過去を敬い、イノベーションを追求する姿勢は、マツダのデザイン哲学と共通する。マツダのデザイナーたちは高精度の技術でフォルムと機能の境界を曖昧にしている。このような価値観は、昨年9月に行われた欧州マツダ(MME)と株式会社スズサンが共同で開催したイベントで体現された。スズサンは東京、名古屋とドイツに拠点を持つデザイン会社で、マツダとスズサンの共同セッションでは、余白の使い方に関する共通認識や、自然から着想を得るアプローチについて議論が行われた。
過去を敬い、イノベーションを追求する姿勢は、マツダのデザイン哲学と共通する。マツダのデザイナーたちは高精度の技術でフォルムと機能の境界を曖昧にしている。このような価値観は、昨年9月に行われた欧州マツダ(MME)と株式会社スズサンが共同で開催したイベントで体現された。スズサンは東京、名古屋とドイツに拠点を持つデザイン会社で、マツダとスズサンの共同セッションでは、余白の使い方に関する共通認識や、自然から着想を得るアプローチについて議論が行われた。
日本の織物・デザイン企業の株式会社スズサン。5代に渡って、伝統技法の絞り染めを継承している。
(写真提供:株式会社スズサン)
金属やクレイなど数多くの素材を取り扱うマツダの職人同様、スズサンもすべての作品を手作業で製作する。人の手が加わった最高品質であり、マツダが独自に開発した「匠塗 TAKUMINURI」と同様の哲学である。「匠塗 TAKUMINURI」は、マツダで最も技術がある職人たちから収集した複数のデータポイントを活用して従来の塗装技術を再現。その技術をロボットに学習させて、より人間味のあるタッチの塗装を実現した。その結果、マツダの量産車には、精緻で高品質の塗装の仕上げが施される。アーティザンレッドプレミアムメタリック、ソウルレッドクリスタルメタリック、ロジウムホワイトプレミアムメタリックはすべて、この技法が採用されたボディカラーだ。
スズサンを率いる村瀬 弘行は、愛知県の旧有松町で5代に渡り絞り染めを行ってきた家に生まれた。2008年にスズサンを創設して以来、村瀬は伝統技法である絞り染めに現代的な解釈を加え、世界に発信している。
金属やクレイなど数多くの素材を取り扱うマツダの職人同様、スズサンもすべての作品を手作業で製作する。人の手が加わった最高品質であり、マツダが独自に開発した「匠塗 TAKUMINURI」と同様の哲学である。「匠塗 TAKUMINURI」は、マツダで最も技術がある職人たちから収集した複数のデータポイントを活用して従来の塗装技術を再現。その技術をロボットに学習させて、より人間味のあるタッチの塗装を実現した。その結果、マツダの量産車には、精緻で高品質の塗装の仕上げが施される。アーティザンレッドプレミアムメタリック、ソウルレッドクリスタルメタリック、ロジウムホワイトプレミアムメタリックはすべて、この技法が採用されたボディカラーだ。
スズサンを率いる村瀬 弘行は、愛知県の旧有松町で5代に渡り絞り染めを行ってきた家に生まれた。2008年にスズサンを創設して以来、村瀬は伝統技法である絞り染めに現代的な解釈を加え、世界に発信している。
スズサンは伝統技法に現代的な解釈を加え世界に発信し、称賛を得ている。
デュッセルドルフで活動する村瀬は、欧州マツダの多国籍から成るデザインチームとの協業を、有意義な機会と捉えた。デザインの美を追求するという2社の共通点を通じて、日本の伝統工芸への国際的な関心の高まりが、伝統の進化を後押ししていることもセッションの題材となった。
村瀬は「日本の手仕事の意義、エッセンスに関するディスカッションが、新たな伝統を生み出していると思います。日本人だけでは話題にならないようなことにまで、伝統の幅が広がっていると感じています」と語った。
「伝統は過去の遺物ではありません。今現在進化し、未来につながるものだと信じています。」
デュッセルドルフで活動する村瀬は、欧州マツダの多国籍から成るデザインチームとの協業を、有意義な機会と捉えた。デザインの美を追求するという2社の共通点を通じて、日本の伝統工芸への国際的な関心の高まりが、伝統の進化を後押ししていることもセッションの題材となった。
村瀬は「日本の手仕事の意義、エッセンスに関するディスカッションが、新たな伝統を生み出していると思います。日本人だけでは話題にならないようなことにまで、伝統の幅が広がっていると感じています」と語った。
「伝統は過去の遺物ではありません。今現在進化し、未来につながるものだと信じています。」
製品は鮮やかで現代的なデザインと、伝統的な手法を融合させている。