枯山水の石庭が有名な京都・龍安寺は、
日本の伝統的な建築とデザインにおける乱れのない美的感覚を堪能させてくれるだけではなく、
来訪者に自分を見つめ直す機会を与えてくれる。
Words Louise George Kittaka / Images Mark Parren Taylor
京都駅からバスに揺られること30分、「古都京都の文化財」として登録されている龍安寺は、日本で最も優れた枯山水庭園を有する例として広く知られている禅宗の寺院である。敷き詰められた砂利は水の流れを思わせる模様に綿密にかき分けられ、水面に浮かんでいるように見える15個の石がアクセントになっている。不思議なことに、どの角度から庭を眺めても15個の石が一度に見えることはない。
京都駅からバスに揺られること30分、「古都京都の文化財」として登録されている龍安寺は、日本で最も優れた枯山水庭園を有する例として広く知られている禅宗の寺院である。敷き詰められた砂利は水の流れを思わせる模様に綿密にかき分けられ、水面に浮かんでいるように見える15個の石がアクセントになっている。不思議なことに、どの角度から庭を眺めても15個の石が一度に見えることはない。
龍安寺の石庭。低い壁に囲まれた四角い庭には砂利が敷き詰められ、15個の石が配石されている。
どの角度から眺めても、1つ以上の石が視界から隠れるように設計されている。
内省へのいざない
建築家でありアーティストでもある作家のアズビー・ブラウンは日本在住歴35年で、「Just Enough: Lessons from Japan for Sustainable Living, Architecture, and Design」(ちょうどいい:日本から学ぶサステイナブルな生き方、建築、デザイン)の著者だ。「龍安寺の石庭は訪れた人に、15個の石の関係性や配置にどんな理論的解釈ができるかを思案するなど、静かな内省を促す」と彼は指摘する。
建築家でありアーティストでもある作家のアズビー・ブラウンは日本在住歴35年で、「Just Enough: Lessons from Japan for Sustainable Living, Architecture, and Design」(ちょうどいい:日本から学ぶサステイナブルな生き方、建築、デザイン)の著者だ。「龍安寺の石庭は訪れた人に、15個の石の関係性や配置にどんな理論的解釈ができるかを思案するなど、静かな内省を促す」と彼は指摘する。
石庭の反対に位置する四角い水鉢。
「吾唯知足(われただたるをしる)」の文字が刻まれている。
「その過程で、15個の石は自然界のどこでも見つけられそうなありきたりな様相を保ちつつも、単なる石ではなくなっていきます。最も重要なのは、龍安寺の建物と庭園のデザインが、私たちを少しの間立ち止まらせ、内省を促し、非日常的な何かを感じさせることなのです。」とブラウンは言う。「龍安寺を含む最も "シンプルに見える "日本建築の多くは、実は自然界の豊かさと複雑さを知覚するよう、私たちに教えてくれているのです。」
「その過程で、15個の石は自然界のどこでも見つけられそうなありきたりな様相を保ちつつも、単なる石ではなくなっていきます。最も重要なのは、龍安寺の建物と庭園のデザインが、私たちを少しの間立ち止まらせ、内省を促し、非日常的な何かを感じさせることなのです。」とブラウンは言う。「龍安寺を含む最も "シンプルに見える "日本建築の多くは、実は自然界の豊かさと複雑さを知覚するよう、私たちに教えてくれているのです。」
かつて住職の邸宅だった方丈から龍安寺の庭園を眺めることができる。
デザイン革命
これらの発想は国境を越え、現代のデザイナーにインスピレーションを与えている。その中には、マツダのデザイナーも含まれる。2009年に前田 育男がデザイン本部の本部長に就任したとき、彼はマツダのクルマに革命を起こした。マツダの未来を握るコンセプトを模索する中で、彼は伝統的な概念をクルマのデザインと結びつけることに着目したのだ。2020年の『The Japan Journal』での対談で、前田は「日本の美意識と言えば、人々は障子や竹を思い浮かべるでしょう。しかしそのような単純な表現では、それらの本質が損なわれてしまう。我々はその精神的なものにアプローチしなければならないと考えたのです」と話した。
これらの発想は国境を越え、現代のデザイナーにインスピレーションを与えている。その中には、マツダのデザイナーも含まれる。2009年に前田 育男がデザイン本部の本部長に就任したとき、彼はマツダのクルマに革命を起こした。マツダの未来を握るコンセプトを模索する中で、彼は伝統的な概念をクルマのデザインと結びつけることに着目したのだ。2020年の『The Japan Journal』での対談で、前田は「日本の美意識と言えば、人々は障子や竹を思い浮かべるでしょう。しかしそのような単純な表現では、それらの本質が損なわれてしまう。我々はその精神的なものにアプローチしなければならないと考えたのです」と話した。
日本独自の美意識が反映されたMAZDA CX-60は、才気溢れるマツダのデザイナーたちの情熱の象徴
「余白の豊潤」はいかにして成し遂げられるか
前田は日本の伝統的な考え方である、「間」と「余白」を取り入れた禅や龍安寺の石庭に、空虚の魅力を見出した。西洋の感覚では、空間や静寂を埋めたくなるが、禅の世界ではその反対なのだ。
ブラウンは「『間』や『余白』は、無や空虚の感性であり、現実世界、ひいては精神的な世界におけるモノとモノの間の関係に注意を向けさせる」と説明する。
「間と余白は両方とも、禅仏教の変容的な空虚、つまり『無』の美しさに繋がっているのです。」
実際にそこにあるものとないものの境界を曖昧にすること、この伝統的な概念は今日、国際的に建築やインテリアデザインにも取り込まれており、日本特有の美的感覚のテイストを与えている。同様に、マツダの哲学は「引き算の美学」に基づいており、デザインテーマに磨きをかけるととともに、中心的な存在にさせている。「間」と「余白」はクルマのデザインにも取り込まれている。
新たな視点でのデザイン
「デザイナーが創る余白は、見る人の想像を掻き立て、感覚に訴える重要なもので、デザイナーがそこに強調したいものをより強く際立たせます。」とチーフデザイナーの玉谷 聡(たまたに あきら)は言う。「エクステリアで要素を極限まで廃した面を『余白』として、その計算しつくされた面に周囲の環境を美しく映りこませる様は、クルマ単体で表現する美しさのレベルを超えて、周囲の環境とともに表現する美しさへと昇華させるのです。」このようにして、美の全体の表現はクルマを越えて、クルマの周りの環境も含めた大きな文脈で考えられている。
「デザイナーが創る余白は、見る人の想像を掻き立て、感覚に訴える重要なもので、デザイナーがそこに強調したいものをより強く際立たせます。」とチーフデザイナーの玉谷 聡(たまたに あきら)は言う。「エクステリアで要素を極限まで廃した面を『余白』として、その計算しつくされた面に周囲の環境を美しく映りこませる様は、クルマ単体で表現する美しさのレベルを超えて、周囲の環境とともに表現する美しさへと昇華させるのです。」このようにして、美の全体の表現はクルマを越えて、クルマの周りの環境も含めた大きな文脈で考えられている。
日本の美意識のエッセンスが凝縮されたMAZDA VISION COUPE。
第33回Festival Automobile International(国際自動車フェスティバル)において、「最も美しいコンセプトカー」に選出された。
「インテリアでも要素を極限まで整理して配置し、『間』を創り出し、そこに車外から入る光を使って、日本の美意識に基づいた光や季節、時間の移ろいを魅せる情緒的な美しさを追求しています。」と玉谷は言い、光の表現においても龍安寺は日本人の美意識の源流になっていると指摘する。「龍安寺における『光』は、時間、季節の移ろいを表すもの。マツダデザインにおいても『光』は、エクステリア造形やインテリア空間を美しく魅せるためだけのものではなく、エクステリアに映りこみ、またはインテリアに差し込むことによって、その時々の時間や季節の移ろいまでも美しく表現するものなのです。」と玉谷は説明する。
自然から着想を得た玉谷は、光は単に「クルマのインテリアの形や空間を引き立てる存在ではなく、時の経過によって表れる美しさを表現する」と語る。
真の魅力
強さやインパクトにフォーカスする業界のデザインのトレンドと対照的に、マツダは常に日本の古き良き感性を最も重要なもののひとつとして捉えている。玉谷は「日本の伝統的な美学に基づいたモノづくりの真摯さ(日本の美意識)に興味を持って惹かれる人々に、マツダデザインは高い価値を感じていただいているのだと思います。」と述べる。
何世紀も前からある龍安寺の石庭で熟考しているとき、もしくはマツダの最新のクルマに乗っているときもそうかもしれないが、時代を越える日本のデザインの品質は、我々が自分たちを取り巻く環境を顧みたり、周囲と繫がっていくその過程で、新たな発見をする機会を与えてくれるのである。日本の美意識を体現したこのモデルが2020年、World Car Design of the Year(ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー)を受賞したことも、まったく不思議ではない。
何世紀も前からある龍安寺の石庭で熟考しているとき、もしくはマツダの最新のクルマに乗っているときもそうかもしれないが、時代を越える日本のデザインの品質は、我々が自分たちを取り巻く環境を顧みたり、周囲と繫がっていくその過程で、新たな発見をする機会を与えてくれるのである。日本の美意識を体現したこのモデルが2020年、World Car Design of the Year(ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー)を受賞したことも、まったく不思議ではない。
「光の大胆な動き」がMAZDA3のインスピレーションの源、と玉谷は言う。