藻類はカーボンニュートラル実現へ向け気候変動緩和への貢献が期待されていると同時に、
バイオ燃料の原料としても注目を集めている。
マツダは広島大学と共同で、藻類有効活用の研究を推進している。

Words Louise George Kittaka

海藻の養殖は17世紀中期に、江戸湾(現在の東京湾)で始まったと言われる。現在世界が直面する気候変動の影響は、海藻にも及んでいる。海水温の上昇に伴い、海藻の生産者たちは複数の種類の海藻の人工授精を行い、高い海水温への耐性を持つ新種の開発を進めている。

 

害虫駆除剤や肥料を使わない海藻や藻類の生産は、地球環境に悪影響を及ぼさない。大気中の二酸化炭素を吸収し、海洋生態系を再生するという、地球環境にとって重要な役割を果たしており、持続可能で環境にやさしいバイオ燃料の原料としても注目されている。

沖縄本島の北方に位置する屋那覇島(やなはじま)と伊是名島(いぜなじま)の間にあるもずく養殖場

沖縄本島の北方に位置する屋那覇島(やなはじま)と伊是名島(いぜなじま)の間にあるもずく養殖場

バイオ燃料とは植物や藻類など、再生可能な生物源から生産される液体燃料を意味し、運輸業にとっては低炭素ソリューションとなる。再生可能という点では、藻類は同じくバイオ燃料の原料となっている大豆とアブラヤシの木、さらにはサトウキビとトウモロコシよりも優れている。また藻類は淡水、海水の両方に生息することから、食物栽培用の農地を奪うこともない。今最も注目を集めているのは、微細藻類だ。微細藻類とは目には見えないほど小さな藻類で、その中でもナンノクロロプシスという種類の微細藻類は、バイオ燃料の最先端研究の対象となっている。マツダは広島大学と共同で、最先端の技術を駆使して、ナンノクロロプシスを原料とする高品質のバイオ燃料開発を進めている。開発されたバイオ燃料は、マツダ車の代替燃料として将来的に採用されるだろう。

実り多きパートナーシップ

マツダと広島大学は、共生関係にある。広島県に本社を構えるマツダでは、地元広島大学の卒業生が多く働いているからだ。 2015年には、広島大学で産学連携の次世代自動車技術共同研究講座「内燃機関研究室」が開設され、バイオ燃料の原料としての微細藻類の研究開発の基盤が整った。

「ナンノクロロプシスが生成する油は、
簡単にバイオ燃料に変換することができる」

広島大学大学院統合生命科学研究科 教授 坂本 敦

マツダと広島大学の共同研究のチームは遺伝子組み換え技術を活用し、ナンノクロロプシスのDNAを操作して、よりバイオ燃料に適したDNAへの組み換えに成功した、最初の研究チームのひとつである。ナンノクロロプシスの成長は速く、大量の脂質を生成するという特徴があるため、バイオ燃料の原料として理想的なのだ。

 

広島大学大学院統合生命科学研究科の坂本 敦教授は「ナンノクロロプシスが生成する油は、ほとんどのマツダ車に搭載されているディーゼルエンジンに使用されている軽油に簡単に変換することができます」と語る。「しかしながら、バイオ燃料が競争力のある価格で実用化されるには、いくつかの大きな課題が残っています。」

収穫

ナンノクロロプシスに代表される藻類は淡水、海水の両方に生息するため、再生可能なバイオ燃料の生産に適した資源だ。

収穫

ナンノクロロプシスに代表される藻類は淡水、海水の両方に生息するため、再生可能なバイオ燃料の生産に適した資源だ。

開発

遺伝子組み換え技術を活用し、ナンノクロロプシスのDNAを操作して、よりバイオ燃料に適したDNAへの組み換えが行われる。

開発

遺伝子組み換え技術を活用し、ナンノクロロプシスのDNAを操作して、よりバイオ燃料に適したDNAへの組み換えが行われる。

燃料化

マツダはすでにサーキットでバイオ燃料の試験を開始している。富士スピードウェイでは、MAZDA2 Bio Conceptによる実証実験が行われた。

燃料化

マツダはすでにサーキットでバイオ燃料の試験を開始している。富士スピードウェイでは、MAZDA2 Bio Conceptによる実証実験が行われた。

日本は国土面積が小さく、天然資源が限られた国だ。坂本教授は複数のCO2排出量削減ソリューションを開発し、そのうえで排出量削減技術の実装と組み合わせの最適化を実現するシステムが必要だと強調する。

 

このテクノロジーは、世界に大きな影響を与える可能性を秘めている。坂本教授は「マツダとの共同研究は、世界各地で利用されている内燃機関やそのインフラを引き続き活用しながら、カーボンニュートラルの実現という難しい課題に取り組むという、CO2削減のための重要なソリューションです」と語る。

より環境にやさしい未来を目指して

主要バイオ燃料の1つ、水素化植物油(HVO)は使用済みの食用油を原料とし、微細藻類から生産されるバイオ燃料と類似する性質を持つ。HVOはすでに実用化され、特に航空燃料に適しているため、今後は使用済み食用油の需要拡大、ひいては値段の高騰が予測される。

「走る実験室」と呼ばれるMAZDA2 Bio conceptは、使用済み食用油と微細藻類の脂質を原料とするバイオ燃料のみで走行する。

「走る実験室」と呼ばれるMAZDA2 Bio conceptは、使用済み食用油と微細藻類の脂質を原料とするバイオ燃料のみで走行する。

マツダの次世代環境技術研究部門で働く前田 真一郎は「2035年までにマツダの工場でカーボンニュートラルの達成を目指しています。工場だけではなく、カーボンニュートラルをビジネスにとって重要な物流にも拡大すべき、という視点も認識しています。現在入手可能な使用済み植物油を使ったHVOの需要は、急速な拡大が見込まれており、供給不足と価格高騰が起きるでしょう。そのため、マツダでは供給不足の穴埋めとして、微細藻類を使ったバイオ燃料の利用方法を模索しています」と語った。

 

微細藻類研究の第一人者、東京工業大学生命理工学院の太田 啓之教授、およびゲノム編集の世界的権威である広島大学大学院統合生命科学研究科 山本 卓教授の指導の下、 マツダと広島大学は藻類を原料としたバイオ燃料の共同研究を進めている。最終目標は、藻類バイオ燃料の生産量を増やし、生産コストを下げることで、実用的かつ競争力のある石油の代替品とすることだ。

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