日本伝統の工芸品、組紐(くみひも)。作り手の創造力、美、
飽くなきチャレンジ精神により、今なお人々に愛されている。

Words Mariko Kato / Images Showen Kumihimo and Domyo

着物の帯締めとマツダ車のインテリアに共通するものをご存じだろうか?それは日本の伝統工芸品である組紐だ。人の手で丹念に組まれた組紐は、1300年以上にわたって日本各地で作られ、寺の装飾に使われた他、武士の刀の下緒や着物の帯締めに使われ、現在ではアクセサリーとしても愛されている。マツダでは、組紐はMAZDA CX-60のステッチの着想の源となった。

多様な実用性と無限の創造性により、組紐は時代を超えて人々の生活に寄り添い続けてきた。京都にある組紐工房、昇苑(しょうえん)くみひもの八田 俊は「1本の組紐を作るのに、数多くの色と組み方から好きな組み合わせを選ぶことができます。紐にはさまざまな種類がありますが、芸術性と機能性の融合という点では組紐が突出していると思いますね」と語る。

組紐はその実用性により、数世紀の間、人々の生活には欠かせない存在として重宝されてきた。武士の武具や甲冑(かっちゅう)、着物の装飾として、さらには巻物をくくったり、お守りを首に巻く紐として使われた組紐は、その華やかさと高級感により、使う人の個性を引き立てる名脇役だ。東京の上野に本社を構える株式会社 道明(どうみょう)で手組みの技術を守り続ける組紐職人、小林は「甲冑の装飾として選ばれた組紐の色と組み方は、出陣する武士の意気込みを表したと言われています。また、組紐は目立つための手段でもあったんですね。武士の刀の鞘(さや)につけられた組紐には、数多くのバリエーションがありました」と語る。

質の高い組紐を作るには、職人は手染め、手組の伝統的な技法による組紐作りを体得しなければならない。まずは用途に合った糸を選び、調合した染料に糸を浸して染色する。その後染色した糸を巻き取り、複数本の糸を合わせ、組台を使って組紐を組み上げて独自のデザインを生み出す。小林によると、組み上げ工程で最も難しいのは「安定したリズムと手の動き」だそうだ。「何も考えず、無の境地での集中が求められます。周囲で動いているもの、聞こえてくる音などに動じず、集中力を極限にまで高めて作業します。」

質の高い組紐を作るには、職人は手染め、手組の伝統的な技法による組紐作りを体得しなければならない。まずは用途に合った糸を選び、調合した染料に糸を浸して染色する。その後染色した糸を巻き取り、複数本の糸を合わせ、組台を使って組紐を組み上げて独自のデザインを生み出す。小林によると、組み上げ工程で最も難しいのは「安定したリズムと手の動き」だそうだ。「何も考えず、無の境地での集中が求められます。周囲で動いているもの、聞こえてくる音などに動じず、集中力を極限にまで高めて作業します。」

共通のテーマ

日本で武士の兜飾りや着物の帯締めとして長年愛用されてきた組紐は、芸術的な表現へと昇華している。マツダのデザイナーたちは「結ぶ」というコンセプトに着想を得て、クルマの内装に使われるステッチに、「掛け縫い」という独自のアプローチを採用。日本古来の馬具や帯締めの組紐を想起するこのステッチは、空間の微妙な間隔を表現する。CX-60では、人とクルマを結ぶ意識の象徴として、ステッチには掛け縫いの表現が施されている。掛け縫いによってすき間をつくることで、室内空間に深みと奥行きを醸し出している。

近年では、製組機による組み上げが一般的になったが、組紐職人たちは、手組の組紐の品質には敵わないと異口同音に語った。八田は「デザインにイメージや言葉を埋め込むといった、入り組んだ作業は手仕事でないと難しいのです」と語る。小林は、完成した組紐の細やかさ、繊細さは人の手によって作り出されるものだと言う。「完成した組紐は固すぎても、柔らかすぎてもいけません。機械にはできない方法で、人の手で組まれた温かみを表現するのです。」

芸術としての組紐の発展には、チャレンジ精神が欠かせない。組紐は、職人の技と想像力によって現在まで生き残ったからだ。組紐の歴史を紐解くと、文化が途絶える危機が何度かあった。最初の危機は19世紀後半、武士階級制度の廃止によってもたらされた。さらには近代化による、女性の洋装化に伴った着物需要の減少が危機を招いた。しかし、組紐を愛する人々による組紐の進化を通じて、現在組紐はさまざまな商品に取り入れられ、型にはまらない発想によって現代の消費者の心を掴むことに成功した。

   

今日、組紐は世界的に知られた文化となり、思いがけない場所で目にすることもある。人気アニメのファン向けに、昇苑くみひもは匠の技を結集、アニメの各キャラクターのカラーで染め上げた正絹糸を用いた手作りの組紐ブレスレットを製作した。デザインは、2017年に放送された同テレビアニメのクリエイターと共に行われたそうだ。また新型コロナウィルス蔓延期間中、昇苑くみひもは世界中の人々が手を取り合って前へ進むという願いを込めて、世界201か国それぞれの国旗カラーで作られたチャーム付きオリジナル組紐、Glo ColorCube™を発表した。

今日、組紐は世界的に知られた文化となり、思いがけない場所で目にすることもある。人気アニメのファン向けに、昇苑くみひもは匠の技を結集、アニメの各キャラクターのカラーで染め上げた正絹糸を用いた手作りの組紐ブレスレットを製作した。デザインは、2017年に放送された同テレビアニメのクリエイターと共に行われたそうだ。また新型コロナウィルス蔓延期間中、昇苑くみひもは世界中の人々が手を取り合って前へ進むという願いを込めて、世界201か国それぞれの国旗カラーで作られたチャーム付きオリジナル組紐、Glo ColorCube™を発表した。

   

組紐はノベルティとしての使用を越え、ネクタイやベルト、イヤリングなど西洋ファッションにも進出している。京都を訪れる際は、昇苑くみひもが主宰する工房で、組紐体験をしてみてはいかがだろうか。

組紐はノベルティとしての使用を越え、ネクタイやベルト、イヤリングなど西洋ファッションにも進出している。京都を訪れる際は、昇苑くみひもが主宰する工房で、組紐体験をしてみてはいかがだろうか。

組紐の良いところは失敗を修正できることだ。「組んでいておかしいな、と思ったら、それはおそらく組み方の手順を飛ばしたからだと思います」と小林は教えてくれた。「その場合、組んだ紐を一旦ほどきます。コツは、必要と思う分よりも多めにほどくこと。ほどきが足りないと、再び組みだした後に後悔することになりかねませんからね。」

組紐に興味がある人に対し、八田はシンプルに創造力を働かせること、というアドバイスを送る。
「大事なのは、組紐のスタイルや色の組み合わせをたくさん試してみて、組紐の美しさを探ることだと思います」

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