長い歴史を持つ日本古来の紙、「和紙」。
和紙やその特性に着目したマツダのデザイナーたちは、
和紙の長所を生かしたファブリックを開発し、MX-30のインテリアに採用した。
本ストーリーでは、日本で重要な伝統工芸品と位置付けられている一方で、
見過ごされがちな芸術品の1つである「和紙」を紹介する。

Story by Anna Muggeridge / Photography by Patrick Borie-Duclaud & Awagami

およそ1400年前から製造がはじまり、改良を続けている和紙

「人は心を落ち着かせたいと思うとき、とっさに深呼吸をしますよね」とマツダの新世代商品MAZDA MX-30のカラーマテリアルデザイナーが語ってくれた。

「それが今回デザインチームのコンセプト発想の源となり、インテリアで使うマテリアルの選択にも活かされました。人によって深呼吸のペースやリズムは違います。MX-30でもその個性やムラ感の表現方法を模索していた時、ふと和紙が頭に浮かんだのです。」

およそ1400年前から製造がはじまり、改良を続けている和紙

  • 和紙の製造工程は原料の処理をし、風通しのよいところで樹皮を乾燥させるところから始まる。紙作りが欧州に伝わる600年も前から、日本では既に和紙が製造されていた。

19世紀半ば、西洋から伝わった洋紙に対して、日本製の紙は「和紙」と呼ばれる。木材から抽出された繊維を機械で加工、製造する洋紙に対し、和紙の製造方法は大きく異なり、その歴史は長い。紙作りが欧州に伝わる600年前から、日本ではすでに和紙が製造されていた。

「日本書記」によると、墨汁と紙作りの技術は僧侶によって610年に日本にもたらされた。その後、紙質や紙の製造工程は何度も改良され、和紙へと昇華された。

 

伝統的な製法では楮(こうぞ)、みつまた、雁皮(がんぴ)を原料とする和紙、その特徴は視覚的に明らかなテクスチャーと強靭さである。和紙は日々の生活に当時欠かせなかった提灯、傘、衣服、障子などにも使われ、日本初の紙幣にも採用された。

日本全国で製造されていた和紙だが、現在は350以下の家族によって細々と手漉き和紙が作られている。日本における和紙製造の文化的・社会的意義は大きく、3つの和紙がUNESCOの無形文化遺産として登録されている。

ほんの数名の職人によって作られる本物の和紙は強靭で耐久性が高く、
壊れずふやけないという魅力的な特徴を備えている

MAZDA MX-30で使用するマテリアルを探していたころ、原 亮朋は、手漉き紙工房かわひらと西田和紙工房を訪ねた。両工房ともに島根県の西部、石見地方(石州とも呼ばれる)の石州和紙を製造している。

 

「日常生活で使われている和紙はもろく、耐久性が低くてデリケートなものが多いんですね。しかし、この2つの工房を訪問し、限られた職人しか作れない本物の和紙は、耐久性や耐水性があるという魅力的な特徴があることを知りました」と大学のデザイン課程で家庭用紙製造機を設計するために和紙の歴史を勉強した李は語った。

歴史を遡ると、大阪の商人たちは石州和紙で帳簿を作成し、火事が起きたときには大事な帳簿を井戸に投げ込んで守ったという。

ほんの数名の職人によって作られる本物の和紙は強靭で耐久性が高く、 壊れずふやけないという魅力的な特徴を備えている

   

最終的に、和紙はMX-30のインテリア素材に採用されなかったものの、日本の歴史におけるその重要性に加え、繊維の絡まりや唯一無二のムラ感といった独自の特性が、MX-30の内装に活かされた。

「日本の伝統的な建造物や美術に和紙が使われていたことは、素晴らしいと思いました。MX-30の「呼吸をする」マテリアルは装飾的かつ意義があり、空間のアクセントとなることを目指していました。和紙は、我々が探していたマテリアルのスタイルと完璧に合致したのです」と原は語る。

ほんの数名の職人によって作られる本物の和紙は強靭で耐久性が高く、 壊れずふやけないという魅力的な特徴を備えている

和紙の作り方

現在、和紙製造の主流は約1000年前に確立された「流し漉き」と呼ばれる手法である。

和紙の原料となる木々は通常、冬の時期に刈り取られる。一定の長さに切った枝を蒸して樹皮を剥ぎやすくし、乾燥させる。乾燥させた樹皮を煮た後、手で叩いて繊維をより細かくほぐす。原料にネリと呼ばれる粘りのある液体を加え、よくかきまぜて均一にする。漉き桁ですくって縦横に揺らし、長い繊維がしっかりと絡まるようにする。

紙が漉き上がったら桁から外し、紙を敷いた木の板に置き、紙を積み重ねていき、自然に水分を流す。残った水分を取るために圧搾した後、一枚ずつ干し板に貼り付けて表面を叩き、手触りを調整する。最後に天日干しをして、乾燥工程は終了だ。

   

和紙の作り方

煌びやかなネオンとハイテクで知られる日本の社会に入ってみると、紙が根強く利用されている。

支払は主に現金で行われ、仕事で人と会うときには真っ先に名刺を交換する様は、まるで儀式のようだ。書類をファックスで送信することも当たり前に行われている。しかしデジタル化の波は日本の社会にも到達し、特に若い世代では紙の利用が減少している。

 

この時代の変化に真っ向から取り組んでいるのが、徳島県の小さな村を拠点とする革新的なメーカー、アワガミファクトリーだ。

アワガミファクトリーは1952年、藤森家によって法人化され、8代に渡って運営されている。1986年には現在の社長、藤森 洋一(ふじもり よういち)の父で自らも和紙製造の匠であった故 藤森 実(ふじもり みのる)がその和紙製造技術により、勲六等瑞宝章を当時の天皇陛下から授与された。


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