マツダの本拠地、広島のモノ作りの伝統を受け継ぐ匠の職人たちに着目し、
日本文化をこよなく愛するスティーブ・バイメル氏(Steve Beimel)を
現地に派遣して取材を行った。

Words Steve Beimel / Images Eric Micotto

マツダの本拠地、広島のモノ作りの伝統を受け継ぐ匠の職人たちに着目し、 日本文化をこよなく愛するスティーブ・バイメル氏(Steve Beimel)を 現地に派遣して取材を行った。

   

世界には様々な工芸品が伝統として受け継がれている。しかし伝統工芸の数、匠の技の深度という点において、日本を凌ぐ国は存在しないだろう。匠の技と魂が工芸に昇華され、その形は長い年月をかけて研ぎ澄まされてきた。
今回は、モノ作りの伝統で知られているここ広島で陶芸、筆作り、箔押し、そして鋳型製作に関わる人物に出会った。取材を通じて出会った人すべてが、試行錯誤を重ねながらそれぞれの伝統工芸に命を燃やす姿が印象的だった。各伝統工芸の商品、技の鍛錬に対する様々なアプローチ、そして伝統工芸の継承に対する想いを紹介する。

広島の錬金術師が集う歴清社 (れきせいしゃ)

「ようこそおいでくださいました」。

最初に訪れたのは、広島市西区にある歴清社。1905年創業以来、日本の伝統的工芸技術である箔押しを用いた不変色性の紙を作り出す世界で唯一の技術を活かし、新たな素材や装飾技術を提案する企業だ。創業者の家柄はもともと刀剣商を営んでいたが、1876年に発令された廃刀令などにより、商いの転換を余儀なくされたという歴史を持つ。

広島の錬金術師が集う歴清社 (れきせいしゃ)

   

歴清社のクリエイティブ・ディレクター、鐘築 和之 (かねつき かずゆき) は「試行錯誤を重ね、本金箔と同様に変色せず、実用に耐える不変色性の洋金箔 (真鍮製の箔) 、そして箔押し紙の開発、製品化に成功しました」と語る。以来、歴清社は製作費を抑えながら販路を拡大してきた。現在は金、プラチナ、真鍮、錫 (ピューター) など、10種類の素材を用いた箔押し紙を1300ほどのデザインで提供しており、様々な場所で美しい壁装材として活用されている。

品質の微妙な違いを見極めることができる一人前の箔押し職人になるには、約10年かかります。
鐘築 和之

親子二代に渡って歴清社に勤務する鐘築は、父親の仕事に向き合う姿勢に惹かれて歴清社に入社したと語った。
「ここで働きたいと自然に思うようになりましたね。日常的に箔と触れ合う環境で育ちましたし、仕事に情熱を燃やしている父の背中に影響を受けたんだと思います」。

 

6年の訓練と経験を経て、クリエイティブ・ディレクターとなった鐘築。歴清社は現場での匠による指導を通じて箔の手貼り、接着剤とコーティング加工、仕上げという3つの部門それぞれの専門家を育成していると教えてくれた。鐘築は、一人前の職人になるには最短でも1年半から10年かかると言う。また、同社の育成システムを「次世代にしっかりと継承していきたい」と語った。

 

「歴清社には、商品ラインや製造手法を進化させて、変化する市場に対応するという方針があります。個人的には、今の仕事に対する情熱が息子に伝わればいいなと思っています」。

親子二代に渡って歴清社に勤務する鐘築は、父親の仕事に向き合う姿勢に惹かれて歴清社に入社したと語った。
「ここで働きたいと自然に思うようになりましたね。日常的に箔と触れ合う環境で育ちましたし、仕事に情熱を燃やしている父の背中に影響を受けたんだと思います」。

 

6年の訓練と経験を経て、クリエイティブ・ディレクターとなった鐘築。歴清社は現場での匠による指導を通じて箔の手貼り、接着剤とコーティング加工、仕上げという3つの部門それぞれの専門家を育成していると教えてくれた。鐘築は、一人前の職人になるには最短でも1年半から10年かかると言う。また、同社の育成システムを「次世代にしっかりと継承していきたい」と語った。

 

「歴清社には、商品ラインや製造手法を進化させて、変化する市場に対応するという方針があります。個人的には、今の仕事に対する情熱が息子に伝わればいいなと思っています」。

肌に優しい熊野筆

筆作りで知られている広島県安芸郡熊野町。この町で筆作りに従事する2000人が水墨画、書道や化粧に用いられる毛筆の8割を製造しているというから驚きだ。自宅や小さな店で働くこの町の筆の作り手たちが手掛けるのは数百種類もの毛筆で、価格も小銭で買えるものから数十万円するものまでと様々だ。農業が主要産業だった熊野町。農閑期には出稼ぎが行われており、出稼ぎの道中に筆や墨を行商することが盛んだったことから、出稼ぎ農家が東日本から毛筆を持ち帰り、行商したことが起源とされている。

 

熊野町で最初に立ち寄ったのは、株式会社 仿古堂 (ほうこどう)。116年の歴史を持つこの会社の代表取締役、井原 倫子 (いはら ともこ) は、彼女の父は家業を継ぐ前、マツダでエンジニアとして働いていたと話してくれた。「自動車と筆、商品は違えど、技巧にかける情熱という意味では同じものを感じたのだと思います」と井原は語った。

肌に優しい熊野筆

   

筆づくりは全て手仕事で行われ。剃刀と櫛のみで獣毛を揃えていく。
同社の筆作りを主導する筆職人、香川 翆皐 (かがわ すいほう) は筆作り40年のベテランだ。香川は彼女の母親同様、仕事をしながら筆作りを学んだという。仿古堂で筆職人になるには、最低10年かかるそうだ。香川は「ここではみんなが筆作りの70工程を見て、真似しながら覚えるんですよ」と語る。

言葉での説明はほとんどありません。手を動かして、身体で筆作りを覚えるんです。
香川 翆皐

次に立ち寄ったのは、メークアップアーティストや化粧用の毛筆を製造する株式会社 竹宝堂 (ちくほうどう)。ここでは毛先をあえて切り揃えず、形状を整えることで、化粧品をしっかりと含み、肌へのあたりが柔らかく、素晴らしい仕上げを実現するという説明を受けた。ここで筆作りを行う末永 珠枝 (すえなが たまえ) は18年かけて筆作りの腕を磨き、「原毛を扱う感覚」を養ったと言う。

 

市場や化粧品の変化を見据え、末永はさらなる技術の向上を目指している。
「市場に登場する新たな化粧品に合わせて、新たな種類の毛筆を作っています。毛筆の進化に取り残されないよう、毛筆作りの鍛錬を怠らないことが個人的な課題です」。

次に立ち寄ったのは、メークアップアーティストや化粧用の毛筆を製造する株式会社 竹宝堂 (ちくほうどう)。ここでは毛先をあえて切り揃えず、形状を整えることで、化粧品をしっかりと含み、肌へのあたりが柔らかく、素晴らしい仕上げを実現するという説明を受けた。ここで筆作りを行う末永 珠枝 (すえなが たまえ) は18年かけて筆作りの腕を磨き、「原毛を扱う感覚」を養ったと言う。

 

市場や化粧品の変化を見据え、末永はさらなる技術の向上を目指している。
「市場に登場する新たな化粧品に合わせて、新たな種類の毛筆を作っています。毛筆の進化に取り残されないよう、毛筆作りの鍛錬を怠らないことが個人的な課題です」。

   

ギャラリー


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