日本では現在も高く評価されている書道。
マツダでも、書道はデザイン哲学の重要なコンセプトを表現する手法として採用されている。
Words Alice Gordenker / Images Alun Callender
書道とは、毛筆と墨を用いて紙に文字を書き、その文字や書体などを通じて書き手の想いを伝える表現方法。より速く、効率的なコミュニケーション手段が整備された現代において、なぜ古代から続く筆記システムが生き残っているのだろう?ひらがな、カタカナと漢字が入り混じった複雑な日本語に対応するキーボード、スマートフォンやSMSが普及した現在、あえて毛筆で紙に想いをしたためることは不要とさえ思われる。しかし、書道は日本で最も大切な伝統芸術の1つとしてだけではなく、現代の生活や商業のツールとしても活用されている。
マツダのブランドスタイル統括部の坂本は「文字の中に宿る根本的な美しさがあるから、書道は生き残ったのだと思います」と語る。
「毛筆と墨で文字を書くことで、印字からは伝わらない書き手の感情や感性を表現することができるのです」。
書道の起源は中国にあり、5世紀初頭に日本に伝わった。その後、日本では描画、将棋、音楽と書道をたしなむことが教養の証となった。
マツダのデザイン哲学を表現する最新の書は、マツダのエンジニアによってしたためられた。馬と乗り手の調和を意味する「人馬一体」の書は、技術研究所の西川が手掛けた。この書は、西川の書道の経験や技術に、エンジニアとしてのマツダでのキャリアが組み合わされて完成した作品だ。
マツダの造語である「魂動」の書も西川によるものだが、これは次世代デザインビジョンのコンセプトモデル「VISION COUPE」を毛筆で表現して欲しいというデザインチームの要望によって作成された。西川は300回以上「魂動」という文字を試し書きし、VISION COUPEの特徴であるエレガンス、安定感と動きの完璧なバランスを追求した。
マツダのデザイン哲学を表現する最新の書は、マツダのエンジニアによってしたためられた。馬と乗り手の調和を意味する「人馬一体」の書は、技術研究所の西川が手掛けた。この書は、西川の書道の経験や技術に、エンジニアとしてのマツダでのキャリアが組み合わされて完成した作品だ。
マツダの造語である「魂動」の書も西川によるものだが、これは次世代デザインビジョンのコンセプトモデル「VISION COUPE」を毛筆で表現して欲しいというデザインチームの要望によって作成された。西川は300回以上「魂動」という文字を試し書きし、VISION COUPEの特徴であるエレガンス、安定感と動きの完璧なバランスを追求した。
「書道は白と黒、2色の世界。書は墨で書く文字と余白で成り立っている」
技術研究所 西川
現代の日本においても、綺麗な字を書く人は尊敬される。書道は日本の義務教育の一環で、書道教室に子どもを通わせる家庭もある。大人でも書道教室に通ったり、先生について個人レッスンを受け、趣味や生涯学習として書道を楽しむ人がいるが、多くは年賀状を送る際に綺麗な字を書きたいというのがモチベーションになっている。百貨店では贈答品ののしの表書きやメッセージに美しい字が書ける書道経験者を採用している。一流の和食レストランの中には、毎朝その日の御品書きを和紙に毛筆でしたためている店もある。
「書いてある文字が読めなくても、その意味はおのずと伝わるはず」
アーティスト 竹田吏江
日本で幼い頃から書道を習い、20年以上前にヨーロッパに移住したアーティスト、竹田吏江(たけだ りえ)は「書道の美しさは、国を超えて人々を魅了する」と語る。現在はドイツを拠点として、書道と絵画やコラージュなど、異なる芸術技法を組み合わせたアートを制作するほか、様々な国籍の生徒に書道を教えている。プライベートやグループでの書道レッスンに加え、アートやクリエイティブスキルに特化したオンライン学習サイトDomestikaでも書道コースを提供する。世界数百万人の加入者を有するDomestikaでの竹田の書道コースは、好評を博している。
「書道を鑑賞するのに日本語を知っている必要はありません」と竹田は言う。
「書道の力は優雅な直線、均整の取れた構成、余白の巧みな使い方など、日本の美意識の基本理念にあると思います。日本固有のデザイン基礎の普遍的な魅力が、観る人の心を揺さぶるのです」。
マツダのデザイン哲学「魂動-SOUL of MOTION」も、日本の美意識に根差している。2010年、魂動デザインの発表の準備を進めていたマツダは、プロの書道家に日本語名の主要コンセプトのイメージ制作を依頼した。坂本は「ありきたりの印字フォントに比べ、書道は大きなインパクトを与えると確信していました。コンセプトロゴを発表することは、新車発表に匹敵します。だからこそ、ロゴを見た瞬間、強烈な印象を与えることが重要でした」と語る。
2018年、マツダのデザインチームが「人馬一体」の書の刷新を決定した時、チームは社内の意外な人物に声を掛けた。数年前の忘年会で、一部の社員による出し物が行われた。西川は巨大な紙を宴会場の床に広げ、ダイナミックな書道パフォーマンスを披露した。これを覚えていたメンバーがいたのだ。
マツダのデザイン哲学「魂動-SOUL of MOTION」も、日本の美意識に根差している。2010年、魂動デザインの発表の準備を進めていたマツダは、プロの書道家に日本語名の主要コンセプトのイメージ制作を依頼した。坂本は「ありきたりの印字フォントに比べ、書道は大きなインパクトを与えると確信していました。コンセプトロゴを発表することは、新車発表に匹敵します。だからこそ、ロゴを見た瞬間、強烈な印象を与えることが重要でした」と語る。
2018年、マツダのデザインチームが「人馬一体」の書の刷新を決定した時、チームは社内の意外な人物に声を掛けた。数年前の忘年会で、一部の社員による出し物が行われた。西川は巨大な紙を宴会場の床に広げ、ダイナミックな書道パフォーマンスを披露した。これを覚えていたメンバーがいたのだ。
西川は幼少時に書道を始め、趣味として楽しんでいたが、仕事としてマツダで書を書いたことはなかった。ブランドスタイル統括部は西川に対し、新たな書の作成を依頼した。坂本は「社内に人材がいたことは、本当に大きなアドバンテージでした。西川さんは書道家であると同時に、マツダのデザイン哲学を最も深いレベルで理解していらっしゃる方ですので、こちらとしても大きな安心感がありました」と当時を振り返った。
西川にとって、半年間の協業とエンジニアの仕事には、ある共通点があった。「マツダでクルマをデザインする時、本当に必要な要素だけを残してエレガントで洗練された雰囲気を醸し出すことに注力します。書道にも余計なものは無いほうがいいという美意識があり、これは日本の伝統芸能に通じるんです。書道とエンジニアの仕事との共通点を見出すことができましたので、光と影のバランスや筆の運びの間の余白の扱いなど、詳細レベルでの相談を予想以上にスムーズに行うことができました。」
西川は幼少時に書道を始め、趣味として楽しんでいたが、仕事としてマツダで書を書いたことはなかった。ブランドスタイル統括部は西川に対し、新たな書の作成を依頼した。坂本は「社内に人材がいたことは、本当に大きなアドバンテージでした。西川さんは書道家であると同時に、マツダのデザイン哲学を最も深いレベルで理解していらっしゃる方ですので、こちらとしても大きな安心感がありました」と当時を振り返った。
西川にとって、半年間の協業とエンジニアの仕事には、ある共通点があった。「マツダでクルマをデザインする時、本当に必要な要素だけを残してエレガントで洗練された雰囲気を醸し出すことに注力します。書道にも余計なものは無いほうがいいという美意識があり、これは日本の伝統芸能に通じるんです。書道とエンジニアの仕事との共通点を見出すことができましたので、光と影のバランスや筆の運びの間の余白の扱いなど、詳細レベルでの相談を予想以上にスムーズに行うことができました。」
書道の筆遣いは、マツダのデザイナーにもインスピレーションを与えた。書道には、筆を止めてエネルギーを蓄える「トメ」、力を抜きながら筆を横に動かす「はらい」などの技法がある。CX-30の側面からは、「トメ」と「はらい」が感じられる。流れるような筆遣いを思わせる側面のデザインは、ためた力を前方への動きと共に放つイメージだ。 坂本は、「クルマに命を与える」ことがマツダの伝統になることを期待している。
「日本の美意識、そして書道を通じて表現される繊細なバランス。どちらもマツダのデザイン哲学と一致していますからね」。
書道の筆遣いは、マツダのデザイナーにもインスピレーションを与えた。書道には、筆を止めてエネルギーを蓄える「トメ」、力を抜きながら筆を横に動かす「はらい」などの技法がある。CX-30の側面からは、「トメ」と「はらい」が感じられる。流れるような筆遣いを思わせる側面のデザインは、ためた力を前方への動きと共に放つイメージだ。 坂本は、「クルマに命を与える」ことがマツダの伝統になることを期待している。
「日本の美意識、そして書道を通じて表現される繊細なバランス。どちらもマツダのデザイン哲学と一致していますからね」。